おまえなら、どっちがいい?―――追うか追われるか。

俺はどっちもイヤだね、何処かおどけた調子でそう言うとくわえた煙草に火を付ける。
そんなイタチゴッコは御免だ、と遠い目をしながら呟いた。

 

あぶない刑事 'ROUND ABOUT MIDNIGHT

 

薄暗い照明に照らし出されるバーの中は雑多なこの街をそのまま凝縮したかの様に、女達の笑い声や酒を交し会う音にざわめいていた。
程良い音量で流れるジャズが、何だか今日は耳に心地好い。
彼の隣で、高い天井に昇って行く紫煙を何と無く視線で追って、それから顔を背けた。
カウンターに背を預けて店内を見渡すと、目の前をトレイ片手に通り過ぎる女がちらりとこちらに視線を向ける。
きつく引かれたアイラインに縁取られた瞳がやけに艶っぽくて、総合して童顔に近い顔立ちも大人びた印象に思わせた…客に見せる為だけに作られた含みのある笑みに一瞬だけ魅せられる。
でも、それだけ。
華やかなのに何故か薄寒々しい、よそ者に優しくて、けれど白々しいぐらい他人行儀な乾いた街。
移ろい行く時と共に移ろい行く街並みは必然で、当然で、どうする事もどうしたいとも思わない。
その中で今も息付くのは自分も同じ事―――ただ、そこに不意に顔を覗かせる変わらない懐かしさは確かで、そんな気にさせる風景もまた、未だ確かに存在するのだ。
まるで、遠の昔に別れた女の幻影を街角に見掛けた様な…そんな妙な気分にさせる。

無茶するねぇ、と唐突に向けられた言葉に顔を向ける。
何が、と素気なく短く問い返してみれば、想定内の案の定の反問に悪戯っ子の様に笑みを浮かべた。
手持ちぶさたの子供の様に手元で愛用のジッポをいじる相棒を目の端で眺めながら、だから何がだよ、と往生際悪く余計に抑揚のない声で問うと、乾いた笑い声を洩らす。
分かってるくせに、と宣って、物言いたげな目付きをくれる、そんな相手に小さく苦笑した。

部屋を覆うのは、酒と煙草と香水の香り。
変わらない、それはいつでもいつまでも何処でも…どんなに街が変わっても其処に住む人間が変わっても。
さして空調が役に立っているとは思えない空間に身を置きながら、それに身を任せてみる。
手元のグラスに視線を下ろせば、琥珀色の揺らぎの中で氷が心地好い軽やかな音を立てた。

そんな事ばっかしてるとロクでもない死に方しかしないぜ。

何を今更、お互い様だろう?

素気無い反論に、違いねぇや、と笑って応える。その様に思わずこちらもつられて笑いそうになって、無理やり憮然とした顔をして口を閉じた。
結局俺達はそうなんだ、変わらないのだ、と反らされた目が暗に語っていて、それでいいのかと問う様に目を向ければ、仕方ないだろうとでも言うように肩をすくめてみせる…それが居心地の悪さを覚えさせるのだ。
そうなのだと分かっていて、そう答えが返ってくるのも分かっていて、それを待っていたのだと気付かされて、全てを見透かされて時の様な妙にすっきり腑に落ちた快さと居心地の悪さ、なんて天邪鬼。
さも不服そうな目で見やれば、逆に反抗的な視線が些か上目遣いで睨んでくるだけ。

追うのも追われるのも、俺は御免だ。

少しの間の後で紡がれる言葉は、再度の断固とした主張。
互いの領域を侵さず…が昔から変わらない暗黙のルール、変わらない俺達のスタンス。
けれど、置いて行くのも置いて行かれるのも嫌だと言う、なんて馬鹿馬鹿しい戯言だろう。
不意に笑いたくなって、困った様に額に手を宛てる。
まったく、どうしてやろうか、この、自分に負けず劣らず我儘な相手を。

約束はしないぜ、そううそぶいて口元にグラスを運ぶと、それを素早く引ったくって一気に酒を飲み干した相手の顔が悪戯な子供染みた表情を浮かべる…今まで何度も見ただろう挑戦的な色を映すその目が、自分を射抜いている。
空になったグラスを少し切なげに眺めてから、ため息をひとつ。

OK、相棒。

   ―――そう来なくちゃ。

 

変わらない、それが俺達なのだから。

 

END


初あぶ刑事SSです。
一昨年の映画DVDをようやく見て、懐かしいなあ…と思って過去のドラマDVDをぶっ続けで見てたら案の定ハマりました。
子供の頃にハマってはいたんだけど、改めて大人になって見ると面白いです。
と言うことで、書いてしまいました…元の作品の雰囲気が少しでも出せたらいいなぁと思いながら悪戦苦闘した短編です。

ブログに携帯投稿したのですが、入力文字数制限で途中何度も打った文章が消える消える!
なんじゃそりゃあ!?と焦る事、数回…もはや誤字修正の気力もなし。
携帯から打つのはもうやめようと心底思う経験をしました(爆)

2007/1/31 BLOG掲載〜2007/2/6 改定版UP

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