あぶない刑事 Stare at Beast おまけ

 

「おまえの様な組織のはみだし者は、ウチの署には要らん」
それが事件を解決した部下に言う言葉ですか、と心の中で悪態付きながらも彼は素知らぬ顔で年下の上司の前に立つ。
「よってクビ、と言いたい所だが…今回の事件への"貢献"を配慮して、他署への移動を命じる」
「…移動?」
訝しむ鷹山を睨みながら、
「そうだ!もちろん、命令無視の職務規定違反による謹慎と1ヶ月の減俸処分が解けてからだ」
と、実に不本意そうな顔が唸った。
そもそも彼は、鷹山の様な人間が同じ警察機関にいること事態を許せないのだろう…エリートコースを直進したいキャリアの坊ちゃんなら、さもありなん。そして、彼は来月末で他署への移動を申し付けられた。度重なる命令無視と単独行動、更に今回の"銀星会"絡みのヤマで完全に彼の上司は彼を放り出す覚悟が出来た訳だ。
元々ウマの合わない仲で、何かと鷹山を白い目で見るキャリア組みの年下腰掛け上司だ。奴に何を言われようと痛くも痒くもない。はみだし者の自分を快く思わない、揃いも揃って上の顔色を窺う権力に弱い仲間達にも未練はない。
―――クビは覚悟だったが。
まさかその程度の処分と移動で済むとは思わなかった…なんて言ったら、また課長は泡を吹いて怒鳴り散らすだろうが。
今回のヤマは、置き土産に丁度いい、ぐらいに考えていたのだが、良い意味で期待を外してくれたらしかった。
さて、新しい上司と同僚は一体どんな顔をして彼を迎えるだろう。彼の噂はとっくに伝わっているだろうし、彼自身も取り繕う気など更々ない。
―――どうせ同じ事の繰り返しに決まっているだろうしな。
思い、浮かぶは自嘲の笑み。
そう言えば、と鷹山は古巣の廊下を歩きながら、急遽組んだ即席コンビの相手を思い出した。
「聞き忘れたな…」
暗がりの中では互いの顔もロクに見る暇もなく、鳴り響く銃声で名乗り合う暇もなく、そんな相手に命を預けたなんて…随分無茶をしたものだと自分でも呆れる。けれど、あの時は信じるに値すると確かに感じたのだ。仕留めたホシを譲って、『貸しだぜ』とうそぶく声が今も印象に残る。
「…また何処かで会うかも、な」
それは予感―――同じ濱に息付く、同じ組織に属する、同じ匂い…危険な匂いを持った男だからこそ。
そう思い付いて、彼はまた笑みを浮かべた。

 

朝日が昼の日差しに替わり始めた頃、港署捜査課に一本の電話が入る。内線を回された近藤はそれを引き取り、「そうですか、はい、はい…分かりました」と答えて受話器を下ろし、何事かと目を向けた部下達に向かって言った。
「例の移動してくる刑事の件だがな。今日、謹慎が解けたそうだ。まったく、初日から謹慎明けとはな…」
どんな奴なのか、先が心配になる…とため息。ちらりと全員が一斉に見やる視線から背を向けて、大下は憮然として口を尖らせた。俺はいつだって悪くない、と思っているのは彼自身だけの様だ。
まだ近藤の声は新しく配属される何処それの某だかの話しているが、大下は興味もなく、聞こうとも思わずに煙草をくわえる。そして、ふと頭に浮かんだ男の事を思い出した。
―――そう言えばあいつ、なんだっけな…
記憶に残る姿はもうおぼろ気で、対した意味もなさない。ただ、一瞬のすれちがいだけが何故か酷く頭の片隅にとどまる。それから、忘れられないのは倉庫街での西部劇よろしく、な大立ち回り。
―――よくやるよなぁ。
それは呆れるを通り越した感心だった。
覚えているのは、暗がりで見えたしっかりしながらもしなやかな長身。そして、通常支給ではないデカい拳銃を片手撃ちする右腕と、左手を胸に添える独特のシューティングポーズ。
一体何処の誰かなど分かるはずもなく、分かりたいとも思わず…ただ、自分と同類の匂いがしたのは確かだった。
―――危ない危ない、刑事さんね。
あの後駆け付けた県警を思えばその仲間かしらん…とも考えたが、如何せん、あの無茶ぶりはその予想を否定する要素にしかならない。もしあんなのがいるのなら、少しは県警も悪くないかもなぁ、なんて思って、彼は苦笑した。
ちらりと時計を見上げた近藤は困惑する様に首を傾げて呟く。
「そろそろ来るはずなんだが…」
それに重なる声が、顔を上げた面々に向かって発せられた。
「遅くなりました」
低い、語る様な声―――けれども良く通る、それ。
明確な聞き覚えもないはずなのに、その声の主が誰なのか大下はすぐに予想して、ぱっと振り返った。そして、そこに予想通りの相手の姿が佇んでいるのを彼は不思議な気分で眺める。
ダークグレーのダブルのスーツに、黒のロングコートをはおった背の高い男…とてもお巡りさんには見えない、と自分を棚に上げた大下は思う。
目が合ってもにこりともしない顔が、大下に向かって僅かに驚きの色を写すが、それもすぐに元に戻る。だから大下も、愛想笑いも浮かべずに相手を値踏みする様に見やった。
数秒の居心地悪い沈黙の後、大下は口を開く。
「よぉ」
「…また会うとはな」
何処かからかう様に発せられた感想を受けて、彼も答えて口元を歪める。
「会いたかなかったけどな」
不意に浮かぶ相手の皮肉な笑顔…鷹山は笑いそうになりながら顔を反らした。
一目で分かった―――あの時の、無鉄砲な危ない刑事だ。そして、何処か似た気質だと感じた男だ。
それから無愛想を絵に描いた様な顔をした鷹山は、大下の横を通り過ぎる。肩透かしを喰らって目を見開いた大下をやり過ごし、立ち上がった面々に言った。
「本日より港署へ配属になりました、鷹山敏樹です」
「近藤だ」
「…よろしく」
鷹山は軽く会釈した上で、初めて会う上司に目を向けた。偏屈そうな顔立ちの中に、今までの仲間達にはない雰囲気を感じとって、彼は初めて口元に笑みを浮かべる。
―――何処が、今までと一緒だって?違うな。
それは予感と言うより、確信。
「吉井に田中、こっちが吉田、谷村だ。それから…」
紹介に頷く全員の後、近藤は鷹山の背後へ視線を向ける。つられて振り返る鷹山に、当の彼は両手をポケットに突っ込んだ姿勢のままぶっきら棒に口を開いた。
「大下勇次」
自ら答えて進み出るその姿は、いい年をしながらまるで不良少年の様。転入生に意気がるガキだ…そのまま見合って、彼はその名を呼ぶ。
「…勇次」
「あン?」
いきなり下の名前で呼び捨てられて眉を吊り上げた大下に、彼は腑に落ちた感覚を覚えながら言った。
「大下、勇次…ようやくフルネームが分かった」
「そー言うそちらさんは、鷹山敏樹さん、ね…タカさん?」
暗がりの銃撃戦で判別出来た互いの名前の一部を口にして、二人は得も知れないおかしさを感じる。今日が正式な初対面だと言うのに、互いを良く知りもしないで付けたあの時の呼び方が酷く馴染むのは何故だろう。
―――また会うと、長い付き合いになると、何処かで気付いていたのかも知れない。
「仲良くやろうじゃないの」
「…どうも」
差し出された手を取って、鷹山は答えた。

 

彼等が港署の問題児…もとい、"あぶない刑事"と呼ばれるのは、それからすぐの事。

「大下、鷹山!おまえ達は何度言ったら分かるんだ?減俸だ、減俸!」
デスクを叩いた近藤の怒声の後、二人は言い募る様に机に手を突いて身を乗り出す。
「え〜っ?それは勘弁して下さいよ、課長ぉ〜!」
「それは無いですよ、課長!」
「うるさい!わしは決めたの!」
遠巻きに身をすくめて見守る捜査課のメンバーの前で、減俸する、しない、の押し問答は続く―――そんな騒がしさに今日も港署は包まれるのだった。

 

 

ABUNAI-DEKA, Forever....

END

 


言うまでもなく、冒頭は新宿鮫。
あの作品、好きなんですよねぇ…でも私の中では真田氏の映画版の方がイメージ強いんですよ。
子供心に、鮫島が犯人に囚われてしまったシーンにΣ(°д°;)←状態でした。
しかし、大沢先生、どうしてあんなに私をハァハァさせるんですか(爆)
…て、あぶ刑事に直接は関係ないよな、シャーク鷹山さん(笑)

ラストは意味もなくフォーエバーです。
意味がない訳じゃないんですが、特に映画に絡んでる訳じゃないので。
でも、私の中で彼等は永遠なのです…それはきっと他のファンの方々と同じ様に。
死んだのは見せかけで、絶対二人は生きててまたインターポールの潜入捜査してるんだ〜!って声を大にします。
で、またふらりとハマに戻って来ちゃったりするんだ。
期待ね、勝手な期待(^_^;)

という事で、2005年映画の事はともかく、今回は鷹山さんと大下さんが出会う編です。
つーか、ちゃんと出会う前の話。
広く、人も多い横浜で出会うのはすごい偶然、かなり運命ですよね。
でもきっと、あの二人なら出会ってそうだな、と思って書きました。
タイプは違うし、でも何処かで似てる部分もあって…最初は仲悪いだろう、と。
同属嫌悪みたいな。
だけど互いに認める部分があって息は合ってると。
うん、勝手な妄想だけどね。
そんな二人を書きたくて…ちゃんと伝える事が出来ていたら嬉しいです。

2007/4/24 BLOG掲載

 

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