この闇が果てるまで、夜が終わるまで、私は歩き続ける。
無意味な感動と無価値な感傷、それらがいつの日か訪れるまで。

例えその先に絶望の淵が在ったとしても、例えこの両肩を押し潰そうと神が命を下しても。

私はこの場で待ち続ける。
追いやられて堕ちるしかなくなるまで。
私はこの場で待ち続ける。

偽りに塗り固められた華燭の街を眺めながら。

 

THE BIG-O  ETC #1 "Still Waiting in the Night 3"

 

 音を立てて崩れていく価値観が、やがて新しいそれを覗かせ始める。
 その手に宿る無機質な感覚が次第に生物的な意図を持っているかのように、全神経を経由して脳を支配していく…
 いや、違う。
 これは"私の中に初めから存在する"願望が、ある日を境に強烈なほどの威力を持って発露し始めただけだ。
 私は私の目の前に俯く、この脆弱で愚鈍な生物を破壊したい衝動に駆られている。
 何よりも熱く、何よりも赤く、生暖かいそれを滴らせたくて仕方ない。
 最期の慟哭を響かせ、絶望と共に倒れ込んでいくそれらの"美しき醜態"を見たくて仕方ない。
 だから私は歩み寄るのだ。
 うっすらと浮かべられた笑みと共に、彼らに永劫の終焉を与えるべく。私の中に芽生えた渇望を埋めるべく。
 そして、それこそが私の求める最大の喜びなのだから。

 

「変わり果てた貴方は、私の知っているアランじゃないわ。彼をどこへ行かせたの」
 君がそう呟いた時に、私の中の何かが壊れた。
 最後の砦のように築かれていたそれが、崩れていった。
 私の血に汚れた右手を、君はそっと蔑みの目で見下ろしていた。
 私は私の目の前に見える赤い水溜りが酷く滑稽に思えた。
 そして、そこに浮かぶ切り離された指先すら。
―――その眼に浮かぶ、天使の涙すらも。
 だが、同時にその言葉は私をほんの少しだけ戻してくれた…自らの行為によって驚愕を覚えている、そんな脆弱な人間の部分を。

 

 男は惨めなほど懇願し、アランを怯えた目で見上げていた。血と涙で汚れた顔も、既に原型を留めているとは言いがたかった。
「助けてくれ…俺が、悪かった…」
 歯の抜けた口が、呂律の回らない舌で紡がれる言葉を吐き出してくる。苦痛と死への絶対的な絶望感を表すように、それは汚らしい血の混じった唾液を含んで地に落ちた。
「今まさに、おまえは生きる価値すらない芥と同等になっている」
 薄ら笑いに渇いた笑い声を立て、アランは機械仕掛けの右腕を左手で撫でる…艶やか過ぎるアランの微笑みと対照的に、それは鈍く光った。
「哀れな愚者、私の手で芸術的に死ねることを唯一の慰みにするのだ」
「た…助けて…」
「アラン!」
 遠くから彼女の呼ぶ声がする…ふと気付いたアランは、遠巻きに自分たちを恐れおののくように見詰める人垣の間から、駆けてくる天使を見つけた。
 その間も、相手の男は震える身体をまるで毒虫の如く足掻かせながら、その場から逃げ出そうと地べたを這いずり回っている。
 アランは、息を切らせながら辿り着いたエンジェルの厳しい視線を受けながらも笑みを崩さず、逃げ回る男の背を上から踏みつけた。
「やあ、エンジェル」
「アラン…」
 エンジェルが悪夢でも見るように顔をしかめ、唸るように呟いたその名前が彼を非難する。だが、アランは少しだけ心外そうに彼女を見て、また微笑んだ。
「頼む…」
 男は自分の血と汚物に作られた泥濘に顔を押し付けられながらも、必死に手をアランへと差し伸べる…彼は右手でそれを凪いだ。
「ひ…ぁああっ!」
 途端に上がる悲鳴は擦れ、見ている者たちから声を奪った。
 ぽちゃん、と言う軽い音を立ててそれらは泥濘に落ち、まるで水底に沈み行く人間が水面へ手を伸ばしているようにも見える…赤黒い液体に浮かんだ指先は。
「さて、最後のお祈りは済んだかな?」
 彼は足を除けると貼り付いた笑みを男に向け、右手を伸ばす。その冷たい手は躊躇無く腫れた瞼のせいで半ば閉じられた男の眼へと突き刺さり、起き上がらせようと抉る。だが、男は立ち上がることなくそのまま地面の上で嗚咽と悲鳴を上げ続けた。
「おや」
 アランは不思議そうに相手を見下ろし、せっかく友好の印として手を貸してやったのに…と嘯く。
「あ…あああ…」
「それを拒否すると言うことは、続行をお望みと言うことだね。ならば、その望み通りにしてあげよう」
 男は恐怖に駆られて正気を失った目をアランへと向ける。彼の手が自分の左胸へと真っ直ぐに振り下ろされるのを、まるでスローモーションのように感じながら…
「やめて、アラン!」
 鋭い声が響き、アランは自分でも信じられないほどそれに反応した。寸での所で指は男の皮膚の浅い所を突き、鼓動する臓器には達せずに止まっている。
 それを、エンジェルはじっと見詰めていた。

 

 ブーギー。
 人でも機械でもない者の総称。
 ふと気づく時、彼らは己の不可思議で不自然な運命にしばしば凍りつく。
 人間であった時の感覚は奪われ、新しいそれが身体に定着した時…彼らは新しい存在へと変わる。
 それまでの葛藤は得てして、誰にでも起こったことだろう。
 変わってしまった自分と、まだ変わることの出来ない自分。
 精神の均衡が異なった形へと変化し始める時、彼らは自分の中の自分と、鏡に映る自分を見比べるのだ。
 人であった自分が、人ではないものへと変貌を遂げた姿を見て。

 望もうと、望まなかろうと、彼らはその運命に流されていく他に術はない。

 

 記憶を失う以前なら、きっとここは多くの人間たちが荘厳な気持ちを持って佇んでいたに違いない…古の栄光を失った"教会"は、暗く沈む世界と同じ色を纏って静かに沈黙している。確かに今も、多くの人間たちが"使命"と"目的"を持って、それが何物よりも崇高であるかのように集ってはいたが。
 エンジェルはその中に立ち、見上げるように祭壇上の相手を睨んだ。
「ヴェラ…」
 躊躇するようにかけられた声に、相手はゆったりと振り返った。そして、鋭い視線を目の前のエンジェルへと向け、うっすらと微笑む。
「どうした、340号?」
―――340号、それが私の名前。
 かつて"天使"と呼んでくれた唯一のママはもう居ない。そして、そう呼んでくれた男も、もう居ない。
 エンジェルは微かに顔を俯かせ、自分を見詰めるヴェラの視線を避けるように言った。
「アラン…いえ、271号は不完全だわ。手術後の精神が不安定過ぎる…仕方ないことだけれど」
「ほう」
「この前だって、ちょっとしたいざこざで相手を殺しかけたのよ」
―――ユニオンとは思えないほど優しかった男が、突然狂犬のように血を求めた。
 "あの出来事"は彼の半身を奪い去ると同時に、彼の中の人間性すらも消し去ったようだった。理性と知性、それら人間として在るべきものを。
「後悔しているのか。それとも憐れんでいるのか」
 彼女はエンジェルを見透かすように、その脆弱で愚かしいほどに愛らしい精神を侮辱した。
「!」
「あの男がこれまでとまったく違う存在になってしまったことが、それほどまでに悲しいと?」
 蔑むように浮かべられた笑顔が向けられ、エンジェルは傷付くように顔をしかめた。だが、何も答えない。
 ヴェラは微笑を浮かべていようとも冷たい顔を真っ向から彼女に向け、そして言う。
「捨てよ。そのような感情は"ユニオンの使途"に必要ない」
「ヴェラ…いえ、12号。分かっているわ」
「ならば…何故おまえはそれほどまでにあの男の変貌で悲嘆にくれているのだ」
「いいえ、私は…!」
 しゅるっと言う音と共に、ヴェラの手に握られていた鞭の端が床の上に降りる。そして、軽くいなすと鋭い音が空気を裂くように部屋の中に響いた。
「黙れ。不完全なのはおまえだ、340号。271号はああなったからこそ完璧なのだ。例え血に飢えた狂人に成り果てたとしても、それこそが望まれた姿なのだ」
「…完璧…あの、狂ったアランが完璧ですって…?」
「パラダイムの腐った愚者が招いた今回の惨事…確かにその卑劣極まりない行為に、"我々"ユニオンは多くの同胞を失い、また、それによって怒りを覚えている。だが、271号は生き残った…」
 ヴェラの唇が歪むように笑みを作り出す。
「ユニオンのために、新たなる力とその意思を持ってな」
「……ヴェラ…」
 エンジェルは自分でも知らないうちに、己の身を守るが如く両手で自分の肩を抱き、そしてよろける様に数歩後ろに下がる。記憶すら無い遥か昔の皮肉な痕…その背にある"もがれた天使の翼"が疼きだしたように感じた。
「それじゃあ…アランは、ただ利用されたというの?」
「利用?」
 エンジェルの言葉にヴェラは厳しい眼差しを浮かべ、そして彼女を出来の悪い子供でも見るように見下ろした。
「利用とはなにか。利用と言う言葉の意味をおまえは知っているのか」
「…え…?」
 歩み寄った彼女は、怯えるように顔をしかめるエンジェルのその顎を右手で掴み、顔を寄せる。
「340号、おまえは生れ落ちたこの場所で、そこにある運命に従ってきた。我々の誰もがそうであり、そうでなくてはならない。ユニオンとはそういうものだ…おまえの愚かで浅はかな頭でも分かるだろう、その意味が。271号はその為に甦った。いや、生まれ変わったのだ」
「…無理やり、ブーギーとして」
 その瞬間、鋭い音が響き、エンジェルは頬に痛みを感じてよろける。
 平手を放った右手をそのまま構えたまま、ヴェラは彼女を見やった。
「望んだのだ。望まぬはずがないのだ。我々ユニオンの人間は、その身がどうなろうと、崇高な目的と理想の為に命さえ投げ出す覚悟をしているのだ」
 おまえもそうでなくてはならない、ヴェラの厳しい眼差しはエンジェルにそれを叩きつける。彼女は白い頬を仄かに赤く腫らせ、子供染みた弱さに潤む目を強引に虚勢で瞬かせた。
「認めよ。そして以後、その無価値な感情を排除することだ。それが我らが同胞へと忠義とならんことを」
 12号は立ち尽くすエンジェルに微笑んだ。

 

 犠牲者と言えばいいのだろうか?
 崇高な理想を掲げるユニオンと、神の名を代行するパラダイムの、その鬩ぎ合いによって与えられた賜物と。
 彼の半身を奪い、そして新たな半身を与えた、一つの闘い…いや、それは闘いなどとは呼べない卑劣な罠だった。
 どちらが悪いわけではない。
 どちらも…そう、どちらもが提議する神聖さなど寸分も窺わせない卑劣さで互いを壊し合った。
 ただそれだけ。
 その場にいた同胞は灰になることもなく、消えていった。
 砂漠の吹き荒ぶ風が全てを洗いざらい消していった…何の痕も残さずに。
 墓標の無い戦士たちが、今もこの砂漠には眠っている。
 そして、彼は皮肉にも残された。
 もぎ取られた右手と、破られた鼓膜、そして閃光に焼きついた網膜を持って、彼は生き残った。
 流れ出る血を、無慈悲なはずの砂漠がその渇いた砂で打ち止めていた。

 いつからだろう、この無骨で冷たい右腕が、本当に自分の一部として稼動し始めたのは。
 時々起こる疼きは痛みではなく、別の何かを呼び覚ますように現れる。
 そして、どうしようもない衝動に駆られ、思うままに破壊を愉しもうとする自分がいる。
―――私は変わった。
 変わったのだろう。
 人間ではなくなった時に、そしてその目的すらも失った時に。

 

 あの日、彼は死んだ。
 ユニオンの栄光と同胞の誇りのために、砂に葬られた。
 そして、彼は甦った。
―――私は、止めることをしなかった。
 彼を失わずにいたい…そんな、浅はかで愚かなエゴが眼を覚ましたのだろう。
―――ユニオンのためではなく。
 そして彼は戻ってきた。
 かつて共に微笑みあい、手を取り合ったアラン・ゲイブリルではない存在として。同じ名の、同じ姿の…そして、まったく異なる姿を与えられた者として。
 パラダイムのあの男…ローズウォーターの息子と表される男…の卑劣な爆撃は、虫けらのようにユニオンの同胞を殺した。そして、ユニオンはアランを実験動物のように改造し、生き長らえさせると同時に"殺すことこそ最良の価値"とでも言うようにそれを行う、無感動な機械へと変えてしまった。ユニオンの名において、その使命を真っ当する使徒として。
―――貴方が狂うことなど、そのことで苦しむことなど、思いもよらなかった。
 その彼の変貌を見詰める自分が傷付くことも…いや、傷付いているのはそれもエゴだ。
 神への冒涜とさえ言えるような方法で延命させられながら、一度死んだ男が戻ってきた。そして、自分の知らない彼へと変わっていく…それを信じたくないからこそ、彼女は傷付いている。彼が帰ってくることを望んでいたにもかかわらず、望んでいた姿で戻ってこなかった…"彼が彼ではなくなる"こと、それが居た堪れないという自己中心的な葛藤で。
 エンジェルはアランの髪に優しく櫛をかけながら、その姿を後ろから見詰めた…変わり果てたその男を。
「エンジェル」
 アランは不意にその名を呼び、はっと我に返ったエンジェルの手をそっと握り、肩に置かすと自分の手をその上に重ねた。
「嘆いているのか?」
「え…」
「私が変わったことを」
「私は別に…」
「君はいつも、何か都合が悪くなるとそうやって顔を逸らして俯く…変わらないな」
「!」
 アランは小さく微笑んだ…どこか寂しげに。
 エンジェルは居た堪れなくなったように彼に後ろから抱きつく。その両手を優しく撫でながら、アランは言った。
「思い出したことがある。こうなっても"メモリー"と言うのは完全には無くならないものらしいね」
 彼女は彼の左肩に頬を当てたまま俯いていたが、それでもぴくりっと震える…だが、怯えるように、彼女は動かずに居た。
 アランはエンジェルの腕を軽く叩き、勇気付けるかのように微笑んだ。
「私は271号…変える事の出来ない宿命だ。そして、それを変えるつもりもない」
「アラン…?」
「エンジェル、私はパラダイムによってこの姿になった。そして、ユニオンは私がこうなることを望んだ…」
「…それは…」
 しかし、彼女の言葉を遮って、アランは言う。
「そして、私自身も。言葉にすることが無かったとはいえ、紅く染まった視界と鼓膜を破った爆音を受けながら、そして手術台の上で、私は自分がこうなることを望んでいた。パラダイムとそこに住まう人間全てを、私は深く憎んだ」
「…あなたは…」
「だから、君が何かを後悔する必要は無い」
「…!」
―――決して、誰かを憎悪することの無かった男だったのに。
 疲れたように溜息を吐いたアランは、鏡に映る自分から目を逸らす。物言わぬエンジェルの、その視線すら避けるように。
「ユニオンは、自分たちを見捨てたパラダイムに復讐する為だけに立ち上がっている…随分と前から。そして、真の平安を望む者はいない」
「…いいえ、アラン。私たちは私たちが安らいで暮らせる世界を望んで戦っているのよ」
「エンジェル、違うよ」
 その否定は、何故か自身の負い目を無理やり無視しているエンジェルを否定するかのように聞こえた…彼女には。
 アランは少しだけ振り返り、凍り付いたように動かない彼女を見上げる。
「それは大義名分だ。彼らは長年の争いで忌み疲れ、それでも"破壊"することへの快感を捨てきれずにいる、哀れな道化なのさ。この不毛の土地へと追い遣られた、そう自分を可哀想がる自虐的で自己満足な人間ばかりだ。そして、煌くドームを羨望と嫉妬で見詰めているだけだ」
「アラン…やめて」
 エンジェルは震える小さな声で、そっと懇願する。
「何の意味もない、無価値な理想を抱いているだけだ。偶像を崇拝することで魂に平和を得られると信じきった、無能な連中と同じ幻想さ」
―――私は何を言っている?私は"私"のことを言っているのか?
「パラダイムに巣食う夢を見間違えてるだけだ。あの嘘で塗り固められた華燭の街に、それ以上の何を求める?」
「やめて…やめて…」
 エンジェルは尚も懇願し、否定するように耳を塞ぐ。
 しかし、彼は止めるどころか、その辛辣な言葉を更に紡ぐ…そんな自分に驚きながらも。
「あるのは、我々と同じく、現実に無頓着な無気力な人々の群れ、そしてそれを形ばかりに導く、偽りの神の代行者だ」
「やめて…お願い、やめて…」
「そして全ては壊れていく。40年前のある日を境に世界が狂ったように、あの日、あの時、私が変えられたように」
「やめて!」
 狂ったように叫んだエンジェルは立ち上がり、部屋を飛び出した。
「…エンジェル!」
 我に返ったアランは、その後を追おうと立ち上がりかける…だが、何故か寝台の上に突いた右手はそれ以上彼を動かそうとはしなかった。

 

 私は何をした?
 何をしようとした?
 穢れを知らない純白の翼を奪い去り、この腕の下に彼女を押え付けようとしているのか。
 哀れなほどに怯えた鳥の、その翼をもぎ取ろうと躍起になった愚かな獣だろうか。
―――他者を破壊することに歓喜する、この右手は。
 彼女の苦しみを、自らの苦しみを、私はいつの間にか何処から這い出してくるとも知れぬ快感に委ねている。
 私は彼女の失望を心地よく感じ、そして同時に、自分への失望を美徳のように感じた。
―――私は狂っている。
 私の傍にいると誓った天使が、悪魔へと身を堕とした男よりも、不確かな"メモリー"を内に抱く背徳の街を見詰めているからだろうか。
 私はいつの間にか、笑っていた。

―――私は全てを憎悪する。己以外の全てを…この舌に災いあれ!

 

 

 重たく圧し掛かる雲を通してもその熱を感じれるほど、ぎらつく太陽が荒涼とした砂の世界を見下ろしている。
「何故、あの場所へ行きたいと思うんだ?」
 彼らは吹き荒ぶ風に自らの視界が阻まれるのを覚えながら、そこに立ち尽くした。
「何故、君はあの街へ行きたいんだ?」
「アラン…」
 振り返ったエンジェルは微かに顔をしかめ、問いかけた相手を睨みつける。それには答えたくないとでも言うように。
 いつからだろう、この間に姿形無き隔たりが築かれたのは…踏み込むことも呼び付けることも出来ないほど、強く重たい壁が生まれたのは。
 アランは表情の無い顔を彼女に向け、彼女が何かを弁明するように語り出すのを待っていた。
「理由なんかない。私達は"使命"の為に…」
「君に"使命感"があるのか?」
 非難するわけでもなく、揶揄するのでもなく、無感情な声が問いかける。
 エンジェルは彼を更に強く睨みつけた。
「どういう意味?」
―――君は、君がユニオンの一員として完全なる認識を周囲から得る前から、あの街を臨み続けていた。
 煌びやかなその偽りの街を、見詰めていた。
 そこにある"真実"を、"メモリー"を求めていた。
―――ユニオンの使命感ではない、別の思いで。
「私はユニオンの女。全てはユニオンと誇り高き同胞の為に…あなたに否定された全てがそうではないと、立証する為に」
 そう言った堕天使は白い面を微かに曇らせ、アランから視線を逸らした。

 

 私は何処に居ようと、私を取り巻く夜を切り開くことは出来ない。
 それは私が私である証拠であり、それが終わる時は私もまた終わる時なのだろう。
 かつて、忘れ去られた感情の中にあった天使の微笑みも失われた私には。
 それもまた、いい。
 私は待ち続けているのだから。
 この果てることなき闇がやがて終焉を迎えるであろう時を、そしてそれが訪れた時に何が起きるのかを待ち望んでいるのだから。
 私はこの場で待ち続けている。
 延々と続く夜のように、いつ果てるとも分からない闇に閉ざされた我々の未来を見詰めるように、虚偽に光り煌く華燭の町を遠くに臨みながら。
 今もこの場所は、砂を巻き込みながら吹き荒ぶ風に支配された荒野だ。
 打ち捨てられた者たちが住まう、打ち捨てられた最果ての大地だ。
 例え神が真に存在したとしても、その寛容な慈悲は決して届きはしないだろう。

 砂嵐の雑音を断ち切るように小さな音を立てて、歯車が廻り出すその時すらも。
 私はこの場で、待ち続けている。
 何かを捨て、別の何かで支配されながら、決して埋められることの無い渇望を強く掻き抱きながら。
 その時が訪れたら…運命がその歯車を廻し始める印を投げかけて来たら、私は歩き始める。
 その先に、深淵へと続く絶望への道が続いていたとしても。
 満たされることの無いそれを、かつての自分には無かったそれを求める為に。

―――残された砂上の城のようなその場所に、それはあったか?
 かつて、あどけなく清らかな涙を流していた堕天使よ、おまえの求める"真実"は見つかっただろうか。

 

「271号、ユニオンの名において、おまえに命ずる」
 私はその声に微笑んだ。

 

END

 


アランの過去と旅立ち、エンジェルの思いと離別。そして、互いを切り離し始める二人。
それは、かつて共に過ごしてきた時間の歯車が狂い始めるのと同じように。
もしアランがこのことを表するなら、「滑稽な悲劇」とか「悲惨な喜劇」とでも言うだろう…「無価値な感傷」かもしれないが。

いや、私がただ単に自己満足的に書いてるファンフィクなんで、そんなことを彼が言うなんて絶対にありえないんですがね。
大体、こんな過去があの二人の間にあったわけないし(笑)
またもや上手く表現できなくて、非常に悔しいです。
もっとどっちか寄りにすればよかったなあ…サイコ的か、人間的か。うん、微妙。<おい

漫画に起こすともっとテンポがマシだったかも。
それに、私の抱いてるイメージが明確になったかな…やっぱりアニメから入ってるんで、どうしてもキャラが動いてる様子を想像してしまうんです。
自分の文才の無さを弁明してるつもりじゃないんですけど、文で説明するより先に頭の中でキャラがどんどん走っていってしまう…
あああ、待って!私の遅筆じゃ追いつけない! そんな感じです。汗。
もっとも…書くのは早い方だと自負してるんですが(内容の薄っぺらさはともかく)

なんでか、ずっとシリアスで暗い感じなのばっかり書いてるなあ。
ずっと前から言ってることですが、今度こそ明るい、ラブラブ〜なロジャー&ドロシーが書きたい…

 

2003/6/15 『THE BIG-O/Still Waiting in the Night 3/ETC』 by.きめら

6/24 一部修正

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