男は皆、夢追い人だと言う。
癒えない傷を抱えて、戦い続ける戦士だとも言う。

 

THE BIG-O Roger/Angel #5 "I look at your dream" 

 

 気が付けば暦の上は既に夏を過ぎ、秋を迎えていた。
 とは言っても、このパラダイムに季節を感じるような気の利いたものなんか一つもないし、あるのは年中変わらない人工的な物だけだった。
 それでも、夏から秋へ変わったという形式的な表面上の変化であっても、妙に心積もりが変わったような気がする。
 秋とは…それがどういったものが既に現在では皆目分からずじまいだけれども…物悲しい気分にさせる。

 エンジェルは眼鏡のレンズ越しに、パラダイムシティのドームを見上げた。相変わらずの不機嫌な灰色の空は薄暗く、その下に並んだ人工栽培の街路樹の葉も幾ばかりかいつもより暗く沈んでいる。
 行き交う人々の群れは相変わらずの混雑沙汰だし、その量も騒然とした喧騒も変わらない…それでも何かしらの胸騒ぎがする。
「やってられないわね…」
 パラダイム社から一歩外に出れば、寒々とした風景が広がっていた。いつもの、栄えているようでどこか裏寂れた巨大な都市…まるで大きな闇に飲み込まれた脱出カプセルか何かが、決して訪れることのない救助を延々と待ち続けているようなイメージを湧かせる―――馬鹿馬鹿しいけれど。
 そんな中、ふと視界に飛び込んできた人物に気付く。思わず顔に浮かぶの苦笑だった。
「奇遇と言うか、皮肉と言うか、貴方はどちらを思うかしら?」
―――黒衣のネゴシエイター、ロジャー・スミス。
 かつかつとハイヒールを鳴らせて、彼女は街の中へと降りて行った。

「お久しぶりね、ロジャー・スミス」
 エンジェルがそう呼びかけると相手は振り返り、黒のサングラス越しに彼女を見やった。
「エンジェル…」
「お仕事中かしら?」
 そう尋ねると、彼は少しだけ笑みを浮かべた。
「いや、終わった所だ。そういう君こそ、また何かの仕事かい?」
「いいえ、もう会社を出てきた所よ」
 もう、何十回…いや、何百回、出会う度に口をつくのだろう、この言葉。
 皮肉も揶揄も要らない、本当に欲しいのは別の意味なのに。

 私は気付いている。
 貴方が何もかもを忘れて、ある日突然記憶を失った街とともに生き続けていることを。
 そして、私が何故、こうして生きているのかを。
 何万回出会ったとしても、貴方が変わらないことを。
 私と貴方の関係が変わらないことを。

―――私は気付いている。

 悠久の時のエンドレス、その悪戯な悲劇は幾度となく訪れる。
 傲慢で高慢で残酷な予告が、いつまでもいつまでも流れ続ける。
 エンドロールのない、ただただ無慈悲な夢、夢、夢。

「神になりたがっている我侭な王様は、貴方が思っている以上にしたたかで残忍よ」
 嘯くように笑みを浮かべて紡がれる言葉、その意味を彼は果たしていつの日か知るのだろうか。
「…どう言う意味だ?」
「気をつけることね」
 顔をしかめ、窺うような色を浮かべる漆黒の瞳…ロジャーの顔からエンジェルは視線をそらすと、歩を進めた。
「エンジェル?」
 ロジャーの問いかける声に、彼女は足を止める事はなかった。

 

男は皆、夢追い人だと言う。
癒えない傷を抱えて、戦い続ける戦士だとも言う。
疲れたのなら、この腕の中で休めばいい。
この手に凭れて、束の間の安らぎを求めればいい。

でも、貴方はまた何処かへと旅立つのでしょう。

貴方は何度でも私と別れる運命にあるのだから。
一時でもこの手に貴方のぬくもりを感じることが出来るのなら、私は他に何も要らない。
きっと、何もかも要らない。

だから。
何度でも何度でも、眠りに付く貴方の傍に私は居る。
旅立ちを前に傷を癒す貴方を抱き締めてあげる。
そして、目覚めた時、貴方の傍に居るのは私ではなく、貴方が最も愛する少女人形、貴方の最も大切な存在。

私は未来永劫、運命を背負って彷徨う堕天使。

 

いつか必ず私のもとへ戻ってくるのだと、女は夢を見る。

 

END

 


久々にビックオーを書きました。ショートです。
またもや報われぬエンジェル姐さん…ごめんなさいm(__)m

実はコレ、昨年の秋頃に書き始めて、今まで放ったらかしにしてました;
なにやらラストをどうしようと思っていたのか、すっかり頭の中から抜け落ちてました(爆)
今度は幸せな話が書きたいものです。

2005/4/8 『THE BIG-O/I look at your dream/ROGER&ANGEL』 by.きめら

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