DOGMA ベサニーの告白

 

もしこの世に神というのが存在するなら、どうしてこれほどまでに人間を苦しめるのだろう。
それは罰。
罪深き愚かな人間に与えられた試練。
断罪の神に幸せを望む事など、始めから無謀なのだろうか。
信仰と理想と、許されざる罪、罪、罪。
夕暮れに振り返って、足元から長々と生えた影に怯える様に、過去は間違いばかり。

後悔と失念と絶望。
時間は決して傷を癒し、埋めてくれることはない。
ぽっかりと口を開けた洞穴の様に、心に開いた穴は空虚で無意味。
それをすっかり覆ってくれるほど、時間は優しくも有意義でもない。
神がもし存在するなら答えて欲しい。
どうして、私は幸せを手にできない?
私は幸せになってはいけないの?
私にその権利はないの?

 

「神にはご計画があるのよ」

それがなんの慰めになるというの、ママ?

 

「私にも計画があるの」

 

 

彼女は車のキーを回した。
エンジンをかけ、ギアをいれる。アクセルを徐々に踏みこみ、車は滑る様に走り出した。
BGMはいつものラジオ。お気に入りの曲が入ったMDは全部捨てた。だって、あんまりにも優しすぎて残酷な思い出が詰まってるから。
クリニックと自宅までのいつもの道を走って、なにも変わらない、なんの刺激もない毎日をただ鬱々と過ごしてる。
毎日詰め寄せてくる中絶反対デモも、同じくらい多い患者も、なにも変わらない。彼らはいったい、毎日なにを思って生きてるのだろう?
中絶は新たな命を奪う行為だ。確かに望まない事態に陥ったから…と言う患者も少なくない。でも、どうしても失わなければならないことだってある…一様に神への冒涜を唱えるけれど、果たして彼らは理解しているのだろうか?望んでいても、失わなければならない人間を。二度と命を宿せない人間もいる事を。
中絶が神の教えに反する事ならば…何故私はこうなってしまったの?
「信仰なんて…」
虚しいだけ。

お祈りの言葉も、決して神には届かない。
だって、何故聞き届けてくれるなら、私から家族を奪ったの?
どうして残酷な別れを与えたの?あれほどあの頃は夢を描いてたのに…幸せな家庭を夫と築く事。
結婚の誓いを神に立てたのに…神は私たちのことなど気付いてくれなかったのよ。
これだけ世界中に多くの人間がいるんですもの、私なんてちっぽけな一人の女なんてどうでもいいのね。

「私にだって計画があったのに…」
ハンドルを握る彼女の細い指に力が入る。白くなるほど握り締めて堪えたのに…涙は無情なことに溢れ出ると頬を伝った。
「…今だってこんなに悲しいの」
忘れようとしたって、駄目。
愛していた夫は、子供の出来ない体になった私を捨てた。
私だって子供が欲しかった…それでも、絶望にひしがれても夫が支えてくれれば幸せになれると思った。別の将来設計を築けばいい…そう思ってたのに。

 

 

「我が名はメタトロン」

 

どうして私?

 

「汝に命ずる」

 

いやよ。

 

何もかも私から奪っていったのに、今更私になにをさせると言うの?
なんて都合のいい話し。

 

「二人の天使が天に戻るのを防ぐのだ」

 

そんな事、知らない。
私からあらゆる希望を奪ったのに、今更…。

 

「私は世界を背負うなんて…できないわ!!」

 

重すぎる…そんなの重すぎる。
私はただの女。不幸な女。キリストの末裔なんかでも、まして聖者でもない。信仰を失いかけてる、ただの女。
ねえ…そうでしょう?

 

「嘘よ…」

 

でも、知ってる。
これは本当。
分かってる…でも、分かりたくない。
怖いの。
大きすぎる宿命が、今まで受けてきたあらゆる宿命が、私を押し潰す。
私は…傷を負った女。決して強くなんてないのに。

 

「どうして私なの…?」

 

神よ、もしこの声が聞こえるなら…どうか教えてください。
幸せにもなれない、苦しみの中で生きる人間のなんて多い事か。
それならば、何故?
何故、私たちは創られたのでしょうか。

 

END

 

 


これは初めて(表向けとして)書いた、ドグマSSでした。
なんだか原作と掛け離れて、シリアスモードなベサニーです。
本来の彼女の人生はこう言う苦しみに満ちたものであり、それを無視して心を頑なにする事で何とか毎日を過ごしている人間だと思うのですよ。
それが、アレだ、ぶっ飛んだキャラクター達と出会って巻き込まれてああなったと…
まあ、結果的にはいい方向になったみたいなので何よりですが(笑)
旧映画ファンサイトより移動させました。今となっては懐かしいショートSSです。

 

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