三銃士 純白の天使

 

 静まり返ったそこは、閑としている訳ではない。その逆で、期待と好奇心で人々の騒がしさが音もなく満ちている。そんな人々の視線を受けながら、僕は祭壇の前で待っていた。

 まったくもって、居心地悪いってのはこのことだね!
 それは悪い意味じゃないよ。ただ、僕も期待と幸福を噛み締めながら、どこかしらの不安を抱いているだけなんだ。
 もし式の途中で自分がヘマしてしまったら?
 もしあの扉が開かずに、彼女が現れなかったら…?
 ありえるはずのない事なのに、不安になる。
 生死をかけた戦いの中だって、こんな風に緊張したことがなかったのに。まるで棒に縛り付けられたみたいに肩や背が固まってしまっている。斬首台に引っ立てられた時だって、これほど金縛りにあったような思いはしなかった。
 いや、ここではっきり言っとくけど、僕は決して嫌がってる訳じゃないんだよ。そのまったく反対さ。喜びに満ちているんだ。ただ、少しばかり、緊張しているだけさ…少しだけね。
 情けないなんて笑うなよ、おい、見えるんだぞ、そこの三人!…ちぇっ。

 今日は僕にとっても彼女にとっても特別な日になった。だって、朝起きたらいつもと同じはずの空や光りや町の風景が、あんなにも輝いて見えたのだから!
 こんなことがあるなんて、知ってたかい?
 たぶん彼女だからこそ…他の女性とだったらきっとそんなことはなかったと思う。

 今か今かと僕は、君が現れてくれる事を待っているよ。

 

 さすが王妃付きの侍女なだけはあって、彼女は上品だし、清楚だし、キュートだ。
 控え目な笑顔なんかすっごく可愛いんだ。
 僕的にはもう少し笑ってるところを見たいけど…まあ、それはおいおいってことで。なんたって僕たちには未来がある。
 おっと、ちょっとのろけ過ぎたかな?悪かったね。でも、僕がそう言うのも分かって欲しい。
 初めて会ったその時に、僕たちはお互いに運命を感じたんだから。

 彼女は純白の羽を広げた蝶だ。穢れを知らない、可憐な蝶なんだ。
 束縛されない、けれど手を伸ばせばすぐに捕らえられそうな…
 蝶は僕の前に舞い降りた。
 まるで花に降り立つ様に、そっと、羽を降ろして。

 ある日、子供は何人欲しい?って聞いたら、君は笑ってはぐらかしたね。
「今は二人のままで居たい」って僕が言ったら、君は僕の肩に寄り添って「ええ」と答えた。
「僕は女の子がいいと思うんだ」
「どうして?」
「君に似た、きっと可愛い女性になると思うから。僕たちの誇りになるよ」
 君は少しだけ驚いて、恥ずかしそうに微笑んだ。
「男の子も欲しいけど」
「貴方の様に立派な男性になるわ」

 僕は捕らえるどころか、彼女に捕らわれてしまった!
 蝶を呼び寄せた花は、そのままその蝶に恋してしまったから。
 だから今、彼女と僕はここにいる。

 潤んだ瞳が僕を見上げる。彼女の柔らかな髪を、慎み深いヴェールが覆っている。白い頬、いつものように控え目に笑った可愛い口元。繊細な指先に僕はそっと触れる。

 そして、ほら、蝶は天使になった!

 純白のドレス身にまとって、見惚れている僕の前に立っている。すっと伸ばした背筋には誇りさえ見受けられる。そう、この僕の妻になる、と言う誇り。
 僕もそうだよ、コンスタンス、君の夫になるんだ。

「死が二人を別つまで…」
 永遠に一緒に居よう、僕の可愛い天使。
「誓います」
 麗しいその声が答えた。

 羽が僕の頬を優しく掠める様に、僕達は神聖な口付けを交した。

 外へ向い、僕たちはヴァージンロードを歩いている。僕たちは神の前で結ばれた。神と友人たちに祝福されながら。

 アラミスが穏やかな眼差しで、微笑んでいる。彼は神聖なこの場所にまさしく似合っている。
 粗野なのに涙もろいポルトス。なんて顔してんだよ?あはは。
 アトス…凛とした姿。僕たちを見送る優しい視線。口元に静かな笑みを湛えながら。

 ありがとう、皆。ありがとう。

 僕の腕に腕を絡ませる彼女は、顔を見合せると幸せそうに微笑んだ。
 僕も今、最高に幸せな笑顔を彼女に返しているところだろう。いや…下手したら僕の方が泣きそうだったかな?少しばかり情けない顔だったかも。
「私は幸せよ」
 労わるような優しさに溢れた彼女の手が僕の頬に触れる。
「僕だって」
 僕は彼女を抱き締めた。

 ほら、わかるかい?珍しく晴れ渡った空が僕たちを祝福してくれてるよ。
 君と僕との新しい日々の為に。

 

END

 


なんと言うか…甘いです。
デュマ原作のかの有名な『三銃士』ですが、イメージはクリス・オドネル主演の『三銃士』です。
こんな感じじゃないだろ!と言う突っ込みはさておき…ダルタニャン(最近はこう表するようです)とコンスタンスのラブロマンスは、『三銃士』において、重要な一つのテーマではないでしょうか。
主人公であることも一因でしょうけれど、各キャラクターそれぞれの過去や人生などを物語内に織り込んでいるデュマの『三銃士』は、活劇と陰謀の冒険ドラマであり、その中にはやはりそれぞれの恋愛歎も含まれます。
何故アトスはかつての高位的身分を偽って一介の騎士になったのか、何故アラミスは結婚しない誓いを立てて司祭になったのか(その割に女性との関係はお盛んな様子で…描かれますねえ)。
と、すいません。豪傑で豪胆は腕も気もいいポルトスについては、実はあまり知りません(汗)

この短編は、原作の持つロマンに惹かれ、ビジュアル的にはクリスやキーファーやチャーリーが出演したあの映画に触発され、書いた物です。
男女ものの恋愛小説って書くのが好きなんですが、ホ●ものより短く、そして甘々になる傾向にあるようです(笑)
さて、ここまでご覧くださったあなた、如何だったでしょうか?

ちなみに、中世欧州におけるキリスト教結婚式についての知識は皆無です。超テキトー。ゴメン。現代風アレンジってことで…。

 

2001/7/30 『三銃士・純白の天使』
2002/4/29 後書書き下ろし   By.きめら

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送