史上最強の弟子ケンイチ 良く晴れた日に


 しとしとと雨が降る。
 秋の足音が少しずつ近付いて来て、そっと夏の名残を消し去っていくように。
 物静かに、ゆったりと、全てを濡らしていく。

 まるで胸に染み入るように、雨が降っていた。


 あらゆる達人達が集う道場、その名も梁山泊―――の道場主である長老の孫娘、風林寺美羽は愛らしい顔を少しだけ曇らせて溜息を吐いた。
「洗濯物が乾かなくて困りましたわ」
 窓から外を見やれば、今日も空は曇り顔…今の美羽と同じように、あまり明るい様子ではない。重たげな雲が風に乗って町に近付いてくる。きっと、今日も雨が降るに違いないだろう。
「もう、ここしばらくはずっと雨ですのに」
 夏が過ぎ、今はもう暦の上では秋である。
 風もカラリと涼やかに変わり、空もその様子を変えて遠く高く澄んだ青空を見せ始めていた。だが、ここ数日はずっと雨が降ったりやんだりで、一向に雲の上にある青空は顔を出してはくれない。これでは家事全般をやりくりしている美羽の仕事の一つ…洗濯が否応なしに上手い具合に終わってはくれないのだ。ただでさえ大所帯で格闘家だらけの家である、毎日修行だなんだと普段着だけじゃなく、胴着やらタオルやら結構な量の洗い物が出るのだ。それが遅々として片付かないのは頭が痛い。
 それに、今日はせっかくの休日なのに…
「お買い物に行くのも億劫になってしまいますわね…」
 ちなみに、買い込む量も半端じゃないのである。
 美羽は浮かない顔のまま道場へと向かった―――近づく度にその場所から気合の入った声やら悲鳴やら、物音が聞こえてくる。そう、梁山泊唯一の弟子、白浜兼一が今、師匠たちの内の誰かに稽古をつけてもらっているのだった。美羽はその様子を思い描いて、困ったような、それでも嬉しそうな顔をしてくすっと笑う。
 手加減の知らない人たちが多いここでは、何度も死にかけている兼一だが…今では大分マシになって、余程の事がない限りはもう一勝負!と言った感じに何度も起き上がってくる。その成長ぶりが嬉しい。その分、修行もよりハードなものに変わってはいるのだけれど。
―――やってるやってる…
 こっそりと覗いてみれば、今は秋雨に柔術の稽古をつけられているようだった。
「いいかね、力だけで相手を投げようとしてはいけない。もっと頭を使いたまえ」
 秋雨はそう言って組んでいる兼一を見下ろした。もう何回も投げようとして投げられまくったのであろう、彼は真剣な眼差しはそのままではあるものの、息を荒げて汗だくになっている。それでも兼一は、ぐっと袖を掴む手に力を入れると、踏み込みながら上体をひねって秋雨を投げようとした。
「でやぁっ」
「そうじゃない!」
「うわっ」
 途端に返し技で足を取られて、道場の床に叩き付けられる。バァンッと派手な音がして、兼一は畳の上に転がった。
「どうした、もう終わりかね?」
「く…っ」
 このまま寝転んで休んでしまえばどれだけ楽だろう…だが、兼一はひどく疲労した身体に自ら鞭打つかのように力を入れて、なんとか上体を起す。それから床に手を突いて立ち上がろうとした。
「もう一手、お願いします…!」
 そう、あの強い眼差しは変わらないままに。
 秋雨はふっと一瞬だけ笑って、すぐに身構える。
「来なさい」
「はいっ!」
 兼一は、たんっと畳を掌で叩いて立ち上がると、再び秋雨へと向かって行った。

 美羽は、いつの間にかそんな兼一の修行する様を見るのが楽しくなっていた。
 初めて会った彼はどうしようもなく情けなくて、泣き虫で、すぐ逃げ出して…今でもそれは根本的には変わってないけれど、前に比べたら随分と変わったような気がした。人間的に大きくなったと言うか、強くなったと言うか。
 確かにあれだけ超人的な師匠たちに鍛えられて強くならないはずがないのだけれど、力だとか技だとか、それだけが彼の強さとは言えない。彼自身が、彼の中の心が、なんだか一回りも二回りも、激戦を乗り越える度に強くなっている。
 それが分かる度に、彼女は言いようのない嬉しさを覚えた。まるで手のかかる弟が成長してるみたいで、と。
―――以前の兼一さんなら、さっき投げ飛ばされた時点で既にギブアップですわね。
 それが今では己の限界を超えようとするかのように、何度でも何度でも立ち上がる。
―――本当に、変わりましたわ。
 そう思う度に、零れる笑みを浮かべる美羽であった。

「だぁ〜、もうダメだ…手に力が入らない…」
 再び投げ飛ばされた兼一が、起き上がれないまま大の字に寝転がって呟く。ゼエゼエと吐き出される荒い呼吸音が、彼が本当に限界に来たのを知らしめていた。秋雨はそんな兼一を見下ろしていたが、「ま、今日はこのぐらいにしておこうか」と言って微笑む。
「少し休んだら、毎日の筋トレメニューをこなしておくように」
「は、はい…」
 本当なら喋るのも大変なのに、兼一はなんとか返事だけは返す。
 秋雨はそれから振り返って、道場の戸口に立っていた美羽に顔を向けた。そして、ふっと穏やかな眼差しを浮かべる。
「嬉しそうだね?」
「え?」
 美羽は驚いたように彼を見やり、それからにっこりと笑った。
「ええ、とっても」
「そうかね」
 そう答える秋雨も微笑んで…それは美羽が兼一の成長を喜んでいる様を見て、更に微笑ましく思うかのように浮かべられたものだった。
 兼一は道場の真ん中でまだ痛みと疲労と上がった息で喘いでいたが、それでも上体を起して美羽を恨みがましく見やる。ちょっと拗ねたように口を尖らして。
「ひどいなあ、美羽さん。ボクがそんなに投げられてるのを見て嬉しいんですか?」
 美羽はくすくすと笑う。
「嬉しいですわ」
「ええっ?」
 美羽の答えに思わずショックを覚える兼一。だが、美羽は優しい眼差しでそんな彼を見やった。
「何度投げられても立ち上がる兼一さんの姿を見ると、嬉しいんです」
「美羽さん…」
 先ほどのショックもどこへ行ったのか、彼は思わずじ〜んとなって彼女を見詰める―――今ので疲れなんか吹っ飛ぶぐらい、自分の方が嬉しくなってしまう。
 そうなのだ、彼はどんなに辛い修行でも彼女の笑顔と気遣い、それからどことなく感じてしまう好意(それが例え友人としてでも)を覚える度に、頑張ろうと思うのだ。それは純粋な部分もあり、年相応の邪まさもあり、ではあるが。ともかく、彼女の存在が、すぐに萎えてしまう彼の精神力を支えているのは確かだ。もっとも、これまでに何度も逃走を企てたり実行したりしたことも事実ではあるのだけれど。
 美羽は兼一の傍にやってくると、すっと手を差し伸べる。この手の、腕のどこにあれほど破壊力のある攻撃を出す力があるのか皆目見等もつかないのだけれど、その一見して華奢な手に見惚れながら兼一は、微笑んだ美羽の顔を見上げた。
「その調子で、頑張ってくださいね」
「は、はい!頑張ります!」
 兼一は逸るようにそう答えた。
 でも、そんな二人の様子を見て一番微笑ましく思っているのは、彼の師匠たちなのかもしれない。秋雨は何も告げることなく、偶然道場に入ってきた逆鬼を捕まえて無理やり出て行こうとする。逆鬼は何故そんな風に押しやられなければいけないのかわからずに相手を訝しげに見たが、ちらりと秋雨が美羽と兼一の方に視線を向けると、「ああ」とわかったようににやりと笑った。
「なるほど?」
「まあ、彼にはコレが一番"効く"んだけどね」
 廊下に出た彼らは、あの二人の様子について思い出すように微笑む。
「じゃあ、今日は兼一にとってあんまりいい日じゃねえなあ」
 そう呟いて、逆鬼は厳つい顔を少しだけ同情するかのようにしかめた…こう見えて、意外と優しいのである。
 それに対して秋雨は、呆れたように溜息を吐いて笑った。
「楽しみが先に伸びたと思えば、いいだけだよ」
「でもあいつ、自分を追い詰める天才だぜ?そうじゃなくてもすぐ落ち込みやがるし」
「おやおや…」
 そんな風に武術以外のことで弟子を思いやる逆鬼の様子すら面白くて、秋雨は微笑ましく思うのであった。 


 その日の午後…いつもだったら日曜日は美羽といっしょに買出しに行くはずであった。だが、この長雨のせいでそれも出来ない。彼女は逆鬼と、近所で借りた車に乗り込んで買い物に行ってしまったのだった。
 泣く泣く筋トレをこなしつつ、兼一は心の中で溜息を吐いた。
「こら、兼ちゃん。ちゃんと集中するね!」
「は、はい!すいませんっ」
 相変わらずのマイペースなのに、どこに目があるのか…馬はエロ本から顔も上げずに兼一を叱咤する。
 だが、師父はふと視線を上げて技の型を練習する兼一を見やって言った。
「買い物に行けずに、残念ね」
「え、ええ…」
―――そりゃあもう、ものすごく。
 行けていれば地獄のようなトレーニングもないし(但し鉄球付きになる)、何しろ美羽と二人きりで談笑しながら歩けるのだ。これを楽しみにしないでなにをすると言う…毎週毎週、それだけが唯一の心のオアシスなのに。
「まあ、来週があるね」
「うう…一週間後がひどく遠い…」

 そんな兼一の心の嘆きを知ってか知らずか、美羽はどこか気分の晴れない顔でスーパーの陳列棚の前を歩いていた。さっきまで一緒にいたはずの逆鬼はどこか別の棚に行ってしまったらしく…大方、アルコールの所だ…今は居ない。
「あとお野菜と…」
 そう言って彼女は葉のしおれてない新鮮そうなものを手に取る。「よし」と一人納得した後、加工食品の棚の前へと移動した。
「あ、そういえば確か兼一さん、チーズかまぼこがお好きでしたわ」
 そう言ってくすっと笑うと商品棚から取り出してかごに入れる。これくらいだったらケチケチしないで買ってあげられるのだから…けれど、あれこれ選んでいる内に美羽はふと気付いた―――さっきから、これは兼一さんの好物だったかしら?とか、これは嫌いだったかしら?とか考えてしまっている自分に。
「あら?…でも栄養のバランスを考えて、買ってはいるのですけれど…」
 む〜と考え込むように顔をしかめて、良く分からない言訳みたいなことを呟く。
 そうこうしている内に逆鬼が戻ってきて、手に持っているビールのダース入りパッケージを嬉しそうに掲げた。
「なあ、美羽。これ買ってくれよ」
「もう、逆鬼さん、ダメですわよ。お酒ならまだ買い置き分がありますでしょ?」
「え、昨日で飲んじまったけど」
 悪びれずにあっけらかんと答える逆鬼に、美羽は引きつった。
「……………ダメです」
「ちぇっ」
 そんな所だけ妙に子供みたいで、面白い…結局、数本だけ買ってあげることにして彼女はレジへと向かう。
 たまたまチラッとかごの中身を見た逆鬼は、言った。
「お?これ…」
 そこには他の食材と一緒にちょっぴり遠慮がちな感じで入っているチーカマ。
「これは逆鬼さんのつまみ用じゃないですわ」
「…別に、とらねえよ。確か兼一が前に好物だって言ってたなあと思って」
「えっ?あ…そうですの?」
「そうですのって、兼一のために買ってやるんじゃないのかよ?」
「う、別にそんなことは…」
 どんぴしゃで当たっているのに、何故か言葉を濁してしまう自分が不思議でならない…変にバツが悪い気がして美羽は誤魔化すように顔を逸らしたが、逆鬼は「変なヤツだな」とか呟いて彼女を見やって少しだけ小さく笑った。
「今日は残念だったな、兼一とじゃなくて」
「え…ええ!?何言ってますの、ですわ!」
「おいおい、何もそこまであわてなくても…なんだかんだ言って、おまえ、兼一と買い物に出るの楽しみにしてただろ?」
「そ、そんなことはないですわ…」
「そーかぁ〜?俺にはそう見えたんだけどな…」
 それは嫌味でも皮肉でもなく、ごく自然な感想だったのだけれど、美羽は珍しく素直に受け止められずにわざと怒ったように言った。
「もう、逆鬼さんったら、変なこと言わないで欲しいですわ」
 そして、つんっとすまし顔でさっさと歩き出してしまう。
 逆鬼はそれを不思議そうに見やってから、ふっと微笑んで歩き出した。
「ま、来週があるさ」
「またそんな…」
「だろ?」
 そう言う逆鬼は訳知り顔で笑っている―――美羽は相手を非難しかけたが、不意に彼が言った言葉の中身に気付いて押し黙った。
―――そうですわ…
 来週、また次の日曜が必ずやって来る。今度は晴れてくれるかどうかが心配だけれども。
―――また、来週があるんですもの。
「そうですわね」
 彼女はくすっと笑う。何故かそう思うと、少しだけ心がぽっと温かくなる気がしたのだった。


 開け方にコツのいる大門を開けて、何個ものビニール袋を抱え込んで入っていく美羽と逆鬼。彼は玄関に入ると床上にそれらをおいて、借りた車を返しにいくために引き返す。美羽は荷物を器用に抱え込むと台所へと入っていった。
 そうしている間も、道場の方では兼一の声が聞こえてくる。今度はアパチャイあたりと修行しているのかもしれない…時々ギャーッと叫んで間髪入れずに大きな破壊音が聞こえるから、確かだろう。
―――って、大丈夫かしら?
 美羽は冷蔵庫に食材を急いで詰め込んで、道場に足を向ける。
 先ほどまで聞こえていた声も物音もまったく聞こえない。
 案の定、覗いてみれば縁側辺りで床をぶち抜いて頭から突っ込んだ兼一の姿があった。
「兼一さん!」
 慌てて駆け寄ってそんな兼一を引っ張り起す。アパチャイは気絶した兼一をオロオロしながら見下ろしていた。
「兼一、大丈夫よ?」
「アパチャイさん!あれほど…」
 そう言いかける美羽。だが、パチリと目を開けた兼一は、自分を抱えてくれていた美羽を制しながら身体を起して言った。
「この状態で大丈夫なわけがないじゃないですか、もう少しで完全に意識が吹っ飛びかけましたよ」
 でも、それは責めるというより、冗談みたいな口調で…おや?なんだかいつもと違う気がする、と美羽は兼一を見上げて、ぱちくりと瞬いた。
「おー兼一、大丈夫!よかったよ!」
「まったく…本当に加減を知らない人なんだから…」
 ふうっと溜息を一つ。
 それでも彼は道場の真ん中へと戻って行って、生還した兼一を嬉々として見ているアパチャイの前で再び構える。そのやる気を見て、アパチャイも嬉しそうに構えた。
「よし、行くよ!兼一、打ってくるよ!」
「はいッ!」
 元気よく返答した兼一がアパチャイのミットに向かって拳を打つ。「はい、そこで避けるよ!」と言われて身をかがめ、それから再び…
 美羽は呆れたような、安堵したような顔をして溜息を吐き、胸をなでおろした。
「まあ、これなら大丈夫そうですわね」
 なんにも増して、彼がやる気を持って修行することはいいことだし。
「お、やってんな」
「あら」
 振り返れば、車を返してきたのであろう逆鬼が美羽の隣に立ち、既に買い込んだビール瓶片手に道場を覗き込む。
「珍しいな、あいつがあんなにやる気出して」
「まあ、いいことじゃないですか」
「ん…」
 シュッと手刀が空を切り、瞬くよりも早く瓶の口が切り落とされる。溢れ出る泡を零さないように逆鬼は、ビールを素早く流し込むように飲んだ。それから手の甲で泡を拭って美羽に言う。
「おまえにとっても、みたいだがな」
 そう言うと彼は、驚く美羽に少しだけ笑ってみせて、くるりと踵を返すと居間に向かって歩き出した。


「兼一さん」
「あ、美羽さん…」
 縁側に腰掛けて修行で火照った身体を冷ましていた兼一は振り返る。呼びかけた美羽がタオルを差し出した。
 外から吹いてくる風は秋の涼しさをどことなく孕んでいて、頬を撫でていく。見上げれば、ようやく雨が上がって、何日かぶりに空がその顔を雲間から覗かせていた。既に日は真上を通り越して傾き始め、オレンジ色とスカイブルーの曖昧で柔らかなコントラストが頭の上に広がっている。
「ありがとうございます」
「いえいえ。今日も頑張ってらっしゃいましたわね?」
 そう言う彼女はどこか嬉しそうに微笑んでいて…兼一は受け取ったタオルを首にかけると、一汗かいた後の心地よい疲労を覚えながら微笑んだ。
「ええ。なんか、今日は他に出来ることもないし」
―――美羽さんとの買い物にも行けなかったし。
 そんな本心を心の中だけで呟く兼一。
 美羽は、すっとそんな兼一の横に腰を下ろす。兼一はちょっとだけ驚いて彼女を見やった。
 美羽は庭を眺めたまま言った。
「でも、頑張ってる兼一さんを見ることが出来て、私は嬉しいですわ」
「え…」
 振り返って、微笑む美羽。
 兼一は自分の胸の鼓動が少しだけ早まるのを感じた…早鐘を打つ。そして、彼女の言葉に自分でも分かってるほどの深読みを期待して。
「そ、そうですかぁ?」とテレまくった笑顔を浮かべて後ろ頭をかく兼一に、「ええ、とっても」と彼女は答える。
「だから、これからも頑張ってくださいね」
「はい」
 それから二人はしばらく無言のまま座っていた。
 やがて、改めて空を見上げた兼一が言う。
「この分だと、明日は晴れそうですね」
「ええ」
 兼一に習って空を見上げた美羽は頷いた。

 どこまでも晴れ渡るこの空のように、未来は無限へとつながっていく。
 何も決まってなどいない、無数の選択肢、無数の可能性が続いているのだ。
 そう、この空のように。
 そして、自分たちの選ぶ道もきっと、晴れ渡って澄んだ空のように明るいはず。

「兼一さん」
「はい?」
 振り返った兼一に、美羽は少しはにかみながら言う。
「次の日曜はいっしょにお買い物に行けたら、いいですわね」
 一瞬だけ驚いたように兼一は目を大きくしたが、すぐににっこりと微笑むと答えた。
「そうですね、是非」

 その二人を見守るように、赤い夕日が西の空へと傾いて行った。
 それは雨上がりの、良く晴れた日のひとときだった。


「微笑ましいのはいいのだが…」
「やっぱりもどかしいね、あの二人を見てると」
 最初に言ったのは秋雨、続けたのは馬だった。
 二人は、なんだかんだ言って談笑する美羽と兼一の後姿を道場の中から眺めていたが、ふっと苦笑めいた表情を浮かべる。
「でも、若いっていいことね。あのぐらいがあの二人には似合ってるね」
 そこから先など、これからいくらでも変えることが出来るのだから―――若い二人なら。
 遅れて逆鬼がひょいっと廊下から中へ入ってくる。そして、なにやら含みのある笑い顔を浮かべる師匠二人を見て怪訝そうに首を傾げた。
「何の話だ?」
「若いと言うのはいろいろな可能性を秘めているな、と言う話だよ」
「ああ?なんだそれ」
「おいちゃんもあのぐらいの時は、いろいろ悩んで、それも楽しかったね」
 締めくくるように思い出を呟く馬…それに対しては笑うわけにもいかず、秋雨は少しだけ肩を竦める。だが、逆鬼は「?」であるが。
「さ、そろそろ我々は居間の方へ行っていようか」
「そうね」
「おい?なんだよ?っていうか、あいつらに声かけないでいいのかよ?」
 そう言って、まだ話している美羽と兼一を指差す逆鬼。だが、彼が声をかける前に秋雨は腕を掴むと強引に引っ立てて、馬とともに道場を出て行く。
「ま、今日は一週間の内で唯一の楽しみを奪われたのだから、無粋な真似はしないでおこうじゃないか」
 廊下を歩きながら秋雨はそう言う。
「なんだよそれ…あ、そっか」
 途中で彼の言わんとしている事に気付き、逆鬼はちらりと後ろを見やってから歩き出す。
「そうね、逆鬼どん」
 馬はくすくすと笑いながら、二人とともに居間へと向かい始めた。



END

 

 

 


はい、初の美羽&兼一でした。
我ながら、何が書きたかったのかイマイチです…爆。
もっと書いてる(読んでる)こっちが恥ずかしくなりそうな、甘ったるくてラブくしたかったんだけどなあ。
途中で限界感じてしまいました。
ダメだねえ、この二人…かなりの勢いで推奨CPなのに。原作でメインなのに。大好きなのに。
あえて原作にあるから書かない!と言う気持ちもずっとあったのだけれど、やっぱり好きな二人なので手を付けたのが間違いだったか;

いつも兼一サイドでしか語られないので、美羽さん視点からこの恋愛を描いたらどうなるかな?と思って書きました。
彼女も少なからず(自覚してないけど)兼一のこと、好きっぽいし。
あるいは自覚してるけどその気持ちの正体を理解してないと言うか、ある意味誤魔化してるようなところがあると思って。
って、やっぱり進展しないよこの二人〜ッ!!

後、師匠たちもなんだかんだ言ってイイ人たちだよねえ…気にしていないようですごく気を回してくれてる部分があって。
ただ、今回はしぐれを出しそびれました。どこにどう出せという?と思ってたら、見事に。
しぐれ好きさん、ごめんなさ。汗。

2004/9/12 「史上最強の弟子/良く晴れた日に」 by.きめら

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