史上最強の弟子ケンイチ 戯れに |
何かを望んだ瞬間に世界は様子を変える。
それまで手にしていた全てが、光りが闇に、闇が光りに。
在るべき姿を失い、居場所を失った哀れな少年よ、おまえが信じていたものはやがて全ての価値を投げ出して消えていくのだから。
そして、戯れに少年は傷付けられる。
それが運命だと言うのなら、運命の神というのは無条件に残酷に違いない。
与えられるべきものなど何一つ無く、剥ぎ取られたものばかりがこの手をすり抜けていく。
いや、与えられて当たり前なんだと勝手に思い込んだ方が愚かなのだ。
そんなものはこの世には一つとして有り得ない。
だって、どこかの神様も言ってただろう、与えるより与えよ、なんて。
俺は俺から全てを奪っていった奴らと同じように、奪い返していくしかないんだから。
君はそれが悲しいと言うけれど。
「君の目は悲しい色を宿しているね」
そう言っておまえは俺を憐れむのだろうか。
「昔の僕と同じ目をしているんだ」
だから俺をそんな風に見るのだろうか。
捨て去った過去と過去の忌むべき自分、そこに見える幻影を憎んでいるのだろうか。
同じ目をした俺を、おまえは排除すべき障害と感ずるのだろうか。
でも、その言葉は優しすぎて、痛い。
変わろうと、強くなろうと、同じ様に目指したはずなのに。
その執着地点はずっと違っていて、結局はぶつかる事しか方法はなくて。
それでもおまえは俺に手を差し伸べる。
「君の悲しい戦いは僕が終わらせなければいけない気がする」
ああ。
無情なる時の神よ、無慈悲な運命の女神よ、何故これほどまでに人を惑わすのか。
隠者の目すら眩ますのか。
いとも容易く、戯れに。
俺を愛せないのなら、繰り返される時の狭間から俺を弾いてくれ。
爪弾く運命の音を断ち切ってくれ。
だから。
いっそ君の手で切り裂かれればいい。
その手で息の根を止めてもらえればいい。
歩くことをやめないこの足を折って、孤高に生きることしか術を知らない俺を倒せばいい。
その涙を受け止めることが出来ないのだから。
END
谷本の独白。
ちょっといい人になったかも…何と言うか、自分の中の気持ちに呵責を覚えて、一人悩んでいるというか。
裏に比べたら断然、イイ人だよ(笑)
本当はこんな弱いキャラじゃないんだけども、こんな彼もアリかなと思いまして。
マンガとか挿絵を描くなら、ラストの部分は妹か、現在のほのかにダブらせた感じをイメージしてます。<言わなきゃ誰の涙を受け止めたいんだか分からんというのが一番の問題だ…
って言うか、自分で書いておきながら「爪弾く〜」の部分でジークフリートを思い出しました。
うん、音楽なら彼だよ。笑。
意味もなくあとがきの最後にオトす私って…;
2004/9/26 「史上最強の弟子ケンイチ/戯れに/谷本」 by.きめら
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