※シーズン2後半をご覧になってからの方がいいかもしれません。ある意味、ネタバレしてます。

 

SUPERNATURAL TALK TO DEVIL

 

それが必然と言うならば、これ以上の皮肉はない。
予め定められた結末はやがて、怒れる神の手で地の底へ投げ落とされるだろう。
悠久なる時の狭間に、燃え盛る業火の中に、永劫にその四肢を焼かれるだろう。

―――愛する事が罪ならば、どんな報いも受けようと俺は誓った。

 

逃げても無駄、その途端に契約は無効になる―――そう告げた、あの忌々しい声が今も頭の中に響いている。
―――クソッタレなアバズレ女め。
それはディーンがサムの魂を取り戻す為に呼び出した悪魔の事だ。
彼はたった一人の家族であるサムを生き返らせる事を悪魔に願ったのである。そして、彼に残っているのは後一年と言う、刈り取られるのを定められた命だった。
どんな事があっても、例え命に代えても、サムを守ると誓った。だからこそ、やり方を間違っているのも承知の上で悪魔なんかと契約したのだ…どんな代償も報いも受ける覚悟をした。ただ、愛する人をもう二度と失いたくなかった。
今やサムもその事を知っていた。
自分の為に魂を売り渡したのだと知って、どんなに苦しみを覚えるかは、ディーン自身が嫌になる程分かっている。自分さえいなければと罪悪感に駆られ、愛されているが故に起きたと分かりつつも逆にそれが重荷になる。それが分かっていてなお、ディーンは願わずにはいられなかった。今ならば、父ジョンが選んだ答えも理解できる気がしている。

「大丈夫、ディーン?」
兄の浮かない様子に気付いて、サムは懸念を表しながら尋ねてくる。ディーンは曖昧な笑みを浮かべながら「ああ、何でもない」と返して、まだ案じる目を向けてくるサムから視線を外した。
今度は僕がディーンを守る―――そう宣言したサムは、今まで以上に強く、真摯で、大人の顔だった。影を負って幼さを失ったのとは違う、確かな力強さを宿していた。
それが嬉しくもあり、寂しくもある、なんて言ったらどんな顔をするだろう。言えるはずもないけれど。
「本当に大丈夫か?どこか痛むの?それとも苦しい?」
サムはディーンの顔をまじまじと覗き込んで気遣ってくる。
その様子を見ていると、ディーンは以前ドジを踏んで心臓に多大な負担をかけてしまったのを思い出した。初めて"死神との取引"を体験した時の事だ。あの時もこうしてサムがいろいろと気を遣ったり、案じたり、世話を焼こうとしたり―――思い出したら余計にバツが悪くて、近付くサムをディーンはぶっきらぼうに押し遣った。
「何でもないって言ってるだろ」
「本当に?」
「本当に、本当だ」
「それならいいけど…」
見栄っぱりで強情なディーンの態度にサムは諦めて、その話題を打ち切った。
―――後、一年。
一緒に居られる確かな時間はたったそれだけだ。
もちろん何か工作して引き延ばすか、帳消しにする手立てを考えるつもりではあるが、上手くいく保証はない。いや、その方法すら見つからないかも知れないのだ。そう思うと、サムは居たたまれない気分に襲われた。自分のせいでディーンを失うかも知れないと思うだけで、居ても立ってもいられなくなる。気持ちだけが先走ってしまって、結果は見えて来ないにも関わらず…それでも何もしないではいられない。
―――なんとしてもディーンを守りたい。
彼は拒むだろうが、それだけは譲れないサムの決意だった。
「愛してるよ、ディーン」
思わず口を突いた本心は、彼ら家族の間では滅多に交わす事のない告白だった。だから言った方も言われた方も、なんとも言えない気恥ずかしさを覚えてしまう。だとしても今のサムにそんな照れはなく、告げたままの慈愛に満ちた眼差しをディーンに向けていた。
「なんだ、唐突に。俺が今すぐ死んじまうみたいな言い方だな」
「ディーン!」
質の悪い冗談にサムは責める様に鋭く名を呼ぶと、確かに笑えないジョークだったとディーンは反省して口を閉じた。苛立ちを露にした目が見詰めてくるが、それを避ける様に顔を背けて黙り込む。
「二度とそんな事を言うなよ。例え冗談でも聞きたくない」
「分かった。悪かった」
素直に非を認めたディーンをサムはしばらく睨んでいたが、ふと視線を和らがせて小さく微笑んだ。
「きっと方法はある。僕は諦めないよ」
「俺だって諦めるつもりはない」
―――もう、大切な人を失いたくない。
それが偽ざる互いの願いだ。
サムはディーンの隣に座ると、伺う様に向けられる視線をじっと見詰め返し、いつもの優しげな眼差しを細めた目に浮かべる。
「愛してる」
「俺も」
改めて紡がれる言葉に、今度はディーンも応えるのだった。

「兄弟同士でなにいちゃついてんの?」

突然の第三者の発言に、二人は飛び上がる程慌てて振り返る―――その目の前に佇む、シックな黒いドレスを身にまとった女性は妖しくも魅惑的な微笑を冷たく浮かべて自分を見る二人を眺めていた。
「誰?」
先に言ったのはサムだ。ディーンはまだ黙ったまま彼女を睨んでいる。その兄の様子に何かしら違和感を覚えて、サムは顔をしかめた。知り合いかと尋ねようとした時、それよりも先に彼女は口を開いた。
「元気そうで安心したわ、ディーン」
「おまえはあの悪魔か?どうしてここに」
「あら、大切な契約者ですもの。しっかり監視してるわよ?」
呆れたふりをしながら、彼女は言った。
「まあ、いつでもって事じゃないけど…いつでも見に来たければ来れるわ」
暗に脅す悪魔をディーンは憎悪を込めた鋭い目で睨む。彼女は大袈裟に悲嘆を表した。
「ああ、ディーン、そんな目で私を見るなんてどうかしてるわ。私のおかげで可愛いサミーとまた会えるのよ?感謝されてもいいぐらいだわ。私の、慈悲深い、優しさのおかげでね」
一音一句に意味を含めて言い放つ女は、優雅にベッドの上に腰を降ろした。
サムは初めて見る、自分の魂を呼び戻した悪魔を怪訝さと僅かな好奇心で眺めていた。ディーンが取引した内容を思えば腹わたが煮え繰り返りそうだったが、どんな風にあの兄を言いくるめたのか気になった。
―――どんな甘言でこの兄を契約させたのか。
自分が死んだ事でいつもの冷静な判断が出来なかったとしても、そう簡単にディーンが落とされる訳がない…サムは今もそう思っている。
彼女は粘り付く様な眼差しでディーンの強ばった顔を嬉しそうに見やり、それからちらりとサムを見て再びディーンに視線を戻す。彼女の興味はどちらかと言うと、黄色い目の悪魔とは違ってサムよりディーンにある様だ。それも、とてつもなく嫌な感じの…。
「安心して、サミー。まだ貴方のお兄さんは連れていかないわ、一年と言う約束ですもの。今の内に好きなだけ、兄弟で愛だのなんだのくだらない事を囁き合ってなさい」
楽しそうに彼女は軽やかな笑いを上げ、考え込む様に首を傾げたディーン達を見やる。
「なに?何か言いたそうね」
言ってごらんなさいと身を乗り出した彼女に、ディーンは口を開いた。
「勘違いしてないか?」
「何が?」
「…何をどうしたらそんな風に見れるのか、全然分からない」
顔を見合わせた二人は呆れ果てた表情で再び彼女を見やる。
「俺達が兄弟以上の関係だって思ってるだろ」
彼女は一瞬だけ表情を固まらせた後、むっとした様に口を尖らせ、それもすぐに元の余裕の笑顔を無理矢理戻した。
「あら、別にいいじゃない。そういうの素敵よ。私はそうなればいいと思っているだけ」
―――絶対、今のは誤魔化しだ。
早とちりもいいところ、かなりうがった見解を披露した悪魔に思わず二人は失笑した。人が愛を語るのは何も恋愛だけじゃない事ぐらい分かっているだろうに、何故彼女が考えをそちらに行かせたのか理解出来ない。まさかそんなドジな悪魔がいるとは…彼女の口振りでは、かつて間抜けなエピソードを数々残してきた最下級の悪魔だとは思えなかったのだけれど。
悪魔は二人の内心の不遜さを鋭く感じて、口調を一変させた。
「死んだらその魂は私のものになる。貴方達が一緒に居られるのも後少しよ」
それは死の宣告に違いなかった―――サムは急に現実を突き付けられて、雷に打たれた様に身を震わせた。嫌でも、ディーンを失うと言う恐怖を思い出す。
だがディーンは変わらぬ態度でいつもの如く軽口を叩いた。
「俺みたいな汚れた魂は要らないんじゃなかったか?」
「ええ、要らないわ。でも十分楽しませてもらうつもり…永遠に弄んであげるわ、ディーン」
もはや彼女の厚顔を崩す事は出来ず、ディーンの皮肉にも顔色を変えはしない。
やがて彼女は現れた時と同様に、唐突に姿を消した。音もなく、静かに―――悪魔特有の硫黄を僅かに残して。

 

静寂を取り戻した室内でようやく身体から力を抜いた二人は、張り詰めた緊張を溜息と共に解いた。
「…えらく気に入られてるみたいだね?」
「ああ、胸糞悪いがな」
異様な付きまといは悪魔だとしなくてもご免被る。例え美女だろうが、ストーカーは願い下げだ。そんなどうでもいい事を心の中で呟いて、ディーンは敵に対して萎えた気持ちを自ら奮い立たせた。心で負ける事が一番、悪魔にとって有利なのだ。
―――急に現れて、確かにビビったけどな。
「ディーン…」
サムは心配げにディーンを見詰め、話しかけた。しかし彼はそれを遮る。
「よせよ、やめろ、何も言うな。俺は諦めない」
「分かってる」
虚勢でも強気な口調を返されて、サムは苦笑しながら安堵した。悪魔に翻弄されていない、いつものディーンだった。
しばし口をつぐんだ二人は何を言うかも思いつかないまま、それぞれのベッドに腰を降ろす。サムは不意に小さく笑って、つられてディーンも笑みを浮かべた。
「それにしても酷い勘違いだよね、あれ」
「だよな」
些か呆れ顔で二人は、彼女が消えた虚空をうんざりと眺めた。

 

END


「HEVEN'S DOOR」の進行がかなり滞っていたので、先に閑話休題の馬鹿話としてUPしました(爆)

シリアスから始まって、ギャグオチ。
途中から愕然とされた方も少なくなさそうな予感がするけど、最初からこの予定でしたのでお許しを(笑)
時間軸は2ndシーズン終了後の設定です。
意外とあの女悪魔、嫌いじゃないのです…(^^;
あんな間抜けキャラじゃないけど、たまにはドジ踏んだら可愛いかと思ってしまって。

ところで最近、無性にドグマが見たい…私が好きなケヴィン・スミス監督、マット・デイモン&ベン・アフレック主演の破壊的(笑)なコメディーロードムービー。
オーシャンズやボーンシリーズで真面目に活躍のマットだが、彼が演じるロキが馬鹿で可愛いんだ…堪らんのよ。
で、誰かに貸したままDVDが行方不明なんだけどサ………orz

2007/11/27 BLOG掲載

 

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