STAR WARS EPISODEW 静カナルコノ夜ノ下デ私ハ思ウ

 

 独占欲の強さと言うものは、個人差がある。もちろん対象物にも。金銭や権力、所有物に対する独占欲や、支配欲に伴った独占欲もある。
 手に入らないものがあると、人は余計にそれを欲しがるものである。無い物ねだりのような。

 では、彼が抱くその気持ちはなんであろうか?

 特定の人物に対する独占欲である。社公的な恋人や、自分より下の兄弟に愛情を注ぐ親に対する子供のそれに似た、アナキン・スカイウォーカーのはそれらをない交ぜにしたような欲望だった。
 彼はそう言う意味では、非常に子供染みた、けれど子供では持ち得ない強い欲望を抱えていた。子供の独占欲とは異なった、欲望を…
 暗黒面へと落ちていくのにさほどの時間はかからなかった。暗黒面は、常に大きな口を開けて、転がり落ちてくるものを待ち受けている。人々は安易で簡単なその道に、いとも簡単に落ちていくのだ。心にどれほどの強い信念を抱いていても。
 方法を誤れば強い信念は強い欲望へと変貌し、目的達成の為の清純な努力は、邪悪な自尊へすり替わる。暗黒面はいついかなる時も人の心の隙に忍び寄り、悪魔のそれと同じように魅惑的な甘言によって誘惑するのだ。

 アナキンがその暗黒面に引きずり込まれ、容易にその使者と成り得たのは、その師であったオビ=ワン・ケノービにとっても痛手であった。
 自分が敬愛してやまない、そして今は亡き偉大なるジェダイマスターだったクワイ=ゴンの残した『希望』だったアナキンが、このような事態に陥ったことを、彼は心から悔やむのである。
 自分がジェダイとして未熟であると突き付けられたかのようだった。
 アナキンの中に芽生えた焦りや悲しみ、嫉妬や憎しみを感じ取っていたはずなのに、それを諌め切ることができなかった。制しし切ることができなかった。彼の教育を引き継ぎ、未来の希望となるべきジェダイを育てなければならなかったはずなのに。

 オビ=ワンは、老い始めた体を自室の椅子に座らせた。
 あの時自分はアナキンを止めるために戦った。そして、彼を燃え盛る溶解炉の中へ叩き落した。

―――二人が剣を交えたのは間違えでだったのか?それ以外に本当に止められなかったのか?寝食を共にして暮らしてきた師弟が、いったいどこで行き違いを起こしたのだ?
間違えではなかったのだ。これは運命付けられたことで、強大なフォースの流れによる歴史の一端でしかないのだ―――彼はそう自分に言い聞かせて、俯いた。
―――もう二度とあの頃には戻れないのだから。
 過ぎ去ったことへの後悔や失念が、今なんの役に立つのだと言う。それよりも新たな希望を見出し、育てることの方が何十倍も大切なのだ。
―――でも、本当に引き返せるのなら、昔のように戻せることができるのならば。
 自分はアナキンを、今は邪悪な存在とと化し、宇宙に恐怖を招いたダース・ヴェイダーを、もう一度愛することができるだろうか?怒りや悲しみを取り除き、かつて師弟であった頃のように慈しむことができるだろうか?
―――できるならばそうしたい。できるのならば。

 オビ=ワンは窓から夜空を見上げた。
 タトゥイーンの荒れた大地の上には、澄んだ空が広がっている。高い建造物などない地表の上に、遥かなる広がりを持って星を瞬かせている。この空に見える星のどこかに、或いは宇宙に飛び交う巨大な戦艦に、きっと彼はいる。きっと、無慈悲な仮面で支配する星々を見下ろしている。
「アナキン…」
 もういなくなった存在の名を、そっと希望を込めて呼んでみる。まだ微かに彼の心にアナキンが残っていることを祈って。そして、彼の残した新たなる希望を思って。
「…この世界の無秩序を断ち切る為に」
 そして、彼は再び老いた体で立ち上がるのだ。暗く沈んだ未来にバランスをもたらす、新たなジェダイを育てるために。

 

END

 


これは、ヴェイダー卿の独白形式になった『深淵ナル宇宙ノ彼方デ私ハ思ウ』と対で製作した、オビ=ワン独白の短編ものです。
こっちが先だったかな…?どっちを先に読んでも大丈夫ですが(笑)

2002/4/18 『静カナルコノ夜ノ下デ私ハ思ウ・オビ=ワン・ケノービ』 By.きめら

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