吹きすさぶ熱風が地面を撫でて、砂だらけの場所に美しい砂紋を描いて行く。
 雲一つない晴れ渡った空は、黄砂によって酷く曇っていた。それでも殺人的な太陽の光は、砂つぶての細かな合間から絶えず挿し込んで来るのだろう。さらさらとした琥珀色の砂が時折、光線の具合で金色に輝いた。
 タトゥイーンの過酷な環境は、この星の平坦な砂漠が続く地上を余す所なく照らし続ける双子の太陽のせいである。そう、双子の太陽…ぎらぎらと、生き物たちを焼き尽くすほど照り続ける二つの太陽。
 眩しげに、そして忌々しげには見上げながら、それでも人々は公然と輝き続ける太陽を羨ましげに感じるのだ。何者にも屈しない、強靭な王者のような二つの太陽を。
 並び、お互いの引力で引きつけられながらも、磁力によって反発し合い、調和的な距離の均衡を保っている。その危うい関係を思う人々は、心なしか不安げだった。けれども、日々の暮らしに必死になってやっと生きているこの星の住人たちにとってはどうでもいいことでもある。悠久の時に思い巡らし、遠い未来を見詰めようなどと言う哲学的で詩人的な感傷など、ここではなんの意味もなさないから。
 それは、かの大戦の時でも同じであった。
 辺境の、なにもない星。どちらにも汲みしない、完全なる孤立惑星。否、誰からも見放され、干渉すら受けた事のなかった星。それはある種の皮肉でもあった。何故なら…この星から、伝説が生まれたとも言えるからである。
 今尚語り継がれる、荘厳なる伝説…ここの二つの太陽は、かつてこの宇宙を揺るがし、巻き込んだ過酷な戦いの当事者たちを表すかのようだ。
 独裁的な帝国軍と、共和国復活を願う反乱軍と、そしてその両極位置した二人を。その両者に分かれた壮絶な戦いは今も語り継がれているのである。
 その主たる戦士を人々はなんと言うであろう?
 彼らは、突き付けられた悲劇的な運命に翻弄されながらも、己の力で立ち上がろうとしてきた。深い絶望と失望に包まれながらも、未来を夢見た。
 ルーク・スカイウォーカーとアナキン・スカイウォーカー…人々は彼らをこう呼ぶのだ。
『フォースに秩序とバランスをもたらした、選ばれた者だ』と。
 それは、かつてジェダイ騎士団によって予言された、特別な存在だった。彼らこそ、その…フォースによって導かれ、運命を背負い、数々の傷を心身に負いながら、戦い続けた選ばれし者たちなのだ。
 運命の悪戯とも言える悲惨な真実を抱きながら、引き付け合い、相反し続けた選ばれし者。
 なんと言う皮肉だろう?予言されながらも暗黒面に落ち、それを自分の魂の片割れとも言える相手に救われた。否、暗黒面に落ち、光のフォースと交わる事こそ、定められた真の『調和』だったのだろう。
 人々は彼らを呼ぶ、『太陽の子』と。
 タトゥイーンの双子の太陽は今も輝き続ける。かつて無数の星々、多くの戦士たちの只中にあって更に力強く輝き続けたフォースの申し子のように。
 これは、歴史的な伝説を紐解く、単なる断片に過ぎない…。

 

STAR WARS EPISODEU A fool under the sun -Miss MOONLIGHT-

 

 荘厳なる高層建築物が建ち並ぶその惑星の中でも一際目を引くほど、権威ある優美なその場所の専用着床場に向って、彼を乗せた合理的で最適なフォルムのシャトルは雄大な鳥の様に気品に満ちて降り立った。
 ハッチが開き、横幅のあるゆったりとした昇降路を降りる。
 ベイには数多くの兵士が整然と立ち並び、中でも階級が他と逸脱した上級仕官が敬意を持って自分を出迎える姿は心地良かった。
 彼はそれを満足げに…けれども顔にはおくびも出さず…歩く。
 畏怖と憧憬の視線に包まれ、こぞばゆいような快感がそこはかとなく心に生まれる。
―――なんと言う恵まれた、日々。
 誰も自分に対し、反抗などしない。そればかりか、何者より尊重され、厚待遇を受けているではないか。
 そう、私はこの宇宙で最も強く、権力を持つ存在。
―――私は、フォースによって選ばれた暗黒卿なのだ。
 例え誰であろうと、この私の邪魔などさせない…そう、強く思った。

 

   ********

「アナキン」
 鋭い声でオビ=ワン・ケノービは呼んだ。
 まだ幼いアナキン・スカイウォーカーは臆する事もなく、自らのマスターの元へ駆けて行く。その姿を目を細めて見ていたオビ=ワンは、自分の前に立ったパダワンに言った。
「私はしばらくコルサントを離れる。新しい任務が下りたのだ」
「え…」
 さすがに驚いたらしく、アナキンはオビ=ワンを見上げた。
「危険はないのですか?」
「危険に臆することは愚かだ、私のパダワン。けれど、避けるべきことでもある…しかし、今回は危険などない。おまえは…」
 そこで、はたと止まるオビ=ワン。期待と不安のまぜこぜになった顔で見上げてくる、幼いパダワンに気付いたからだった。
 彼は苦笑…温かで優しい…を浮かべると、成長途中の華奢な肩を撫でた。
「私と共に来るか?」
 アナキンは笑顔で頷いた。

 マスターとパダワンは一種、共同生活をしている。常にお互いの存在を近くに感じながら…師は弟子の成長をつぶさに観察し、弟子は師の庇護のもとに訓練を積んで…暮らすのだ。
 遠くの星へなにがしらの仕事で向う時も、大方はパダワン同伴である。それは、将来一人立ちしてジェダイになった時に下された任務を遂行するための予備訓練にもなるし、なによりも、外界のあらゆることを知っておく事もジェダイになる為には重要だからだ。
 けれど、危険を伴う場合や重大な極秘任務を伴う場合、幼いパダワンを連れてゆく事はあらゆる問題が生じた。一通りの修練と実力を身に付けた(もうすぐジェダイになると言う)パダワンならば、ある程度の事は自分で対処できるが、まだ少年少女のパダワンではそう言う訳にもいかない。そう言う場合は、ジェダイ寺で他のジェダイに預けて、戻って来る間は修練してもらうのである。
 今回の任務はさほど難しくはないものの、慣例としてオビ=ワンはアナキンを寺院において行こうと考えていた。しかし、アナキンはそれを酷く嫌がっている様だった…確かに、預かる側のジェダイたちも快く対応してくれたとは言いがたい。アナキンが特殊な子供である事は誰の目からも明らかであるから。
 そんな所において行くのも気が引けると言えば引ける。
 結局のところ彼は、(アナキンを連れて行くことに)渋い顔をするヨーダを説得し、頼み込む事にしたのだった。

 コルサントから何光年離れた場所を移動しているのか…あまり正確にアナキンは把握していなかった。しかし、不安などはない。やっと、昔の夢に第一歩を踏み出したところなのだから。
―――宇宙中の星を、全部見るんだ。
 息が詰まるようなジェダイ寺から出れたと言う、解放感が彼を昂ぶらせた。もとよりタトゥイーン育ちの彼には、あそこは本当に息苦しい場所でもある。1年以上経って、やっと表に出られたと言う所だ。
 アナキンは期待と喜びに踊る胸を抱え、窓から矢の様に過ぎ去って行く眩い星々を眺めていた。
「マスター。今回はなにをするのですか?」
 オビ=ワンは隣に立つと、微笑んだ。
「大した用ではないよ、アニー」
―――なんで、教えてくれないのだろう?
 尋ね返したりはしないが、アナキンは心の中で疑問を抱えた。
―――大した用じゃない…自分が連れて来られた事からも分かる…なら、どうして教えてくれないのだろう?
 どうも、オビ=ワンに答える気はないらしい。ただ、ほん少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべている。
 窓の外を眺めている内に、アナキンははっとした。
「この星系…見た事あるって思ったら…」
―――ナブーに向っているんじゃないか!
「マスター、ナブーに行くんですか?」
 オビ=ワンは弟子の勘…もとより、その記憶力の強さ…に微笑んだ。

 

   ********

 あの日の事は良く覚えている。
 久しぶりに会ったアミダラ…もとい、パドメはやはり美しかった。かつて彼女に話した様に、月に住まう『天使』は今も清らかで毅然とし、麗しかった。彼女を見た時、アナキンの幼い心はぱっと晴れ渡る思いだった。
 けれども、オビ=ワンもアミダラも仕事に追われていたので、個人的な関わりなど持つ事が出来なかったのだ。この日、アナキンを見て微笑んだのは一番最初の謁見だけで…二度と話すことも、微笑み会うこともなかった。仕方ない事だとは言え、その現実が彼の心をどれだけ傷付けただろう?ナブーに向っていると気付いた時は、あれほど心が踊っていたのに…
 アミダラは女王なのだ。そして自分は、ジェダイを目指すパダワンだった…

 ダース・ヴェイダーは己の感傷を鼻で笑った。
―――馬鹿な。今更私になんの意味がある…

 人の心などもはや捨て去ってしまった。今あるのは忌まわしきこの体と、皇帝への忠誠心。そして…強大なダークフォース。
 公事でなければもちろん、アミダラはアナキンと対話することがあった。二人きりで談笑することも…限られた時間だけであったが。
 やがて彼女が自分の子を宿し、産み落とした。しかし、彼はそんなことなど知らなかった。ルークと言う若者が、かつて自分の生まれ育ったあのタトゥイーンで暮らしていたことも。
 そして、ルークの存在を知った今、あのような感傷が生まれてきたのだ。
―――月の天使が創り出した者…
 暗黒卿はゆっくりとチェアに身を沈め、独特の呼吸音を洩らした。
 人の心など捨てた…それは事実だ。
 しかし、彼の中で特別な感情が芽生え始めているのも事実なのである。
―――我が息子、ルーク…
 昔愛した女の残した、唯一の存在…それを思わずにいられるわけがない。
 人の心を捨てても、人であることに違いはない。例え恐怖によって全てを傅かせる『悪魔』だと思われていても、それは事実であり、虚偽でもあるのだ。
―――月と太陽は相容れぬ…そして、双子の太陽は引力と磁力によって一定の距離を保っている。
 懐かしい光景を思い出そうとする。
 眩い二つの太陽…それは決して近付くことも、交わることもない。
―――永遠と言う名の無慈悲な壁が、溝が、我々を隔てる。
 悠久の時を、その様に過ごしてきたあらゆる天体。遠く、近くに…けれども決して手の届かない場所に、孤立している。生まれ、死ぬ時までたった一人で存在するのだ。
 しかし、時には吸い寄せられて行く様に自滅して行くこともある。
―――我々はいつもその相手を想像に任せて思い描き、優美な姿を夢見るのだ…
 燦然と輝く太陽を、孤高の麗しい月を。
 決して手の届かない、その姿を見ることもない。
―――私はいつも願うのだ。
 いつかきっと、この手で全てを掴んでみせる。
―――全てを手に入れるのだと。

 

   ********

 勝利を手にして沸き立つ観衆。中には『Son of the sun !』としきりに叫ぶ者がいた。それはフォースに秩序と均衡をもたらすと言われる伝説の選ばれし者を称する呼び名だ。
 ルーク…そして、彼の父・アナキンも、長い時間をかけてその伝説を実現させたのだ。彼らこそフォースに導かれて生を受けた、フォースの申し子だから。
 宇宙中が蜂の巣を突付いた大騒ぎをしている中、英雄たちも原始的な小惑星の上で、そこに住まう小さい勇敢な戦友たちとともに焚き火を囲みながら彼らの奏でる音楽に踊り騒いでいる。
 ダース・ベイダー…もはやアナキン・スカイウォーカーに戻った彼の遺体は、イウォークたちの踊り騒ぐ塊から外れた場所で燃やされた。
 ルークは一人その前に佇んで、火の粉が夜空に舞い上がって行くのをじっと見詰めている。アナキンの魂が…フォースが、この大気にも、宇宙にも自由に解き放たれて行く様に祈りながら。
「ルーク」
 いつのまにか、仲間が彼を迎えに来た。そして、仲間たちの輪に加えようと彼の腕を引く。
 ルークは悲しみの深い瞳をしていたが、金ぴかのドロイドがイウォークに手を引かれて戸惑いながら踊るぎこちない姿を見付けると、すぐに苦笑を浮かべた。
 ハンは少しだけはにかんだような、こそばゆいような感じに苦笑を浮かべた。それからルークを見やると、彼もまたハンを見詰めて微笑んだ。そうだ、ここにいる皆が『仲間』なのだ。
 再び上がる歓声…やはりどこからともなく『Son of the sun !』の声が…。
 焚き火の向こうに、揺らめく光…ルークは目を瞬かせた。そこに、談笑しながら消えて行くヨーダ、オビ=ワン…そして、アナキンの姿を見付けた様な気がしたから。
 歓喜の宴は続く。
 この日、彼らは勝利を掴んだのだ。反乱軍は強大な帝国に。
 そしてアナキンとルークは、勝利したのだ。光りのフォースが暗黒のフォースに…秩序と均衡と調和によって勝利した様に。

―――本当に得たいものを…私は手に入れたのだ。
 自らの手で、そして、息子の手によって。
 交わった太陽は、爆発的な力によって消滅する。けれども、勝った強大な太陽はどうなる?もしも、片割れが自ら死へと踏み選んだら?
 あの舞い上がっては散って行く火の粉の様に、塵に帰って行く。そして、引力に任せてあらゆる星の元へ引き付けられて行くのもあるだろう。そうだ…月のもとにさえ。
―――もう一度、あの月のもとへ…
 彼は微笑んだ。懐かしい、愛しい人が呼んでいるような気がしたから。

 

 今も尚、人々は語り継ぐのだ。
 遠い昔、はるか銀河の彼方で…と。

 

BYEBYE

 


エピソード1によってルークとレイアの母親が誰なのか明かされ、この小話が出来た訳ですが。
もともと構想済み、パドメの名前はなしで書いてはいた話でした。
何処の表にも出してなかったけど(笑)
旧3部作では本当に本当の最後でようやく、心情だとか感情だとかがほんの一部だけ垣間見せたヴェイダー卿。
そんな、まだ明かされぬ彼の心の内を自分なりに書いてみたかった、と言う挑戦で書いたものでした。
まあ、下手なのは相変わらずですけどね;
少しでも読んだ方の心に何か残せれば幸いです。

 

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