僕は決してこの夕日を忘れることはないだろう。
赤く赤く、空も雲も大地も僕や貴女さえ染め上げて、地表へ消えていくあの夕日を。
僕は決して忘れない。
僕の傍らに立って、その夕日を見詰める細められた貴女の目を。

 

STAR WARS EPISODEU 紅い荒野

 

 いつ果てるとも分からない荒野を、一台のスピーダーが砂埃とエンジン音を轟かせながら走り抜けていく。荒削りの岩壁の谷間を、なだらかな砂漠を、まるで死に突進していくかのように。
 夕日に照らされた地表は、赤く、赤く、染まっていた。

 アナキン・スカイウォーカーは、はっとしたように飛び起きた。
 部屋の中を呆然と眺め、彼は息を正す事も出来ずにいた。
 早鐘を打つ鼓動は、猛スピードのスピーダーに乗っていた夢のせいではない。彼が幼い頃から慣れ親しんだポッドレースを考えれば、そんなことは大したショックでもないのだ。
 だが、この夢には続きがある。
 どこまでも続くような地表の向こうにある目的地に存在する、ある事実が彼を苦しめた。決して見たくはない、非情な結末があると知っていたからだ。
 幾度この夢を見たか、覚えてはいない。
 あの日、あの時、全てを捨ててまで救いたかった人の最期。報われることのない自責の念が今も自分を苦しめている。その過去を反芻する記憶の夢が、彼を悲しみと恐怖に突き落とす。
 傷だらけの母をこの腕に抱き、力と体温を失っていくその身体をそっと床に寝かした。
 そして…母を苦しめたサンドピープルの群れを一人残らず殺し尽くした。
「…何故…まだ…」
 怒りと憎しみを使い果たしたはずなのに、この身体の中にくすぶる炎は決して消えたりはしなかった。鈍い痛みを伴って、留まり続ける。
―――僕が救われることはないのかもしれない。
 殺した時に。
 母を失った時に。
 全てを捨ててあの星を旅立った時に。

「アニー?」

 労わりを含んだ涼やかな声が隣から聴こえた。
 自分の隣に横たわる麗しい女性を振り返り、アナキンは曖昧な笑みを浮かべた。だが、アミダラは聡明そうな顔を微かにしかめ、心配そうにアナキンを見上げている。
「悪い夢を見たのね」
「ジェダイは悪夢なんかみないよ」
 ”ジェダイ”と自分を表し、アナキンは思わず笑い出しそうだった。
 いつ明けるとも分からない暗闇の中に身を置いて、一筋の光も見出せずにもがいている自分が”ジェダイ”だろうか。排除すべき負の感情に支配され、未来を見詰めることにすら恐怖を覚える自分が、果たして”ジェダイ”だろうか。
「アニー…大丈夫?」
 囁くように優しく言うアミダラ。
 しかし、アナキンはその言葉を遮り、答えを拒むように、アミダラに口付けた。

 

―――ジェダイは怒ることも、憎むことも、許されない。愛することさえも。
 そんなことは分かっている。
 けれど、生き物ならば必ず持っているはずの感情を押し隠し、苦痛にうめく事が本当に正しいのだろうか。
 理性では分かっていても、本能はごまかすことなど出来ない。
 怒りも、憎むことも、愛も、決してごまかすことなど出来ない。
 自分を嘘で固めてしまいたくはない…例え、この愛を隠すために嘘をついているとしても。
 自分にだけは、嘘をつきたくない。
―――僕は二度と負けない。
 全てを支配できる力を手に入れて見せる。

 そう、死すらも。

 

 砂漠の太陽が僕らを照らしている。
 母を埋めた墓石に向かい、彼女は言葉もなく佇んでいた。
 二度と誰かを失わないように、守れるように、僕はただただ墓を見詰めていた。
―――君を失わないために。
 愛する存在を失わないように。

 でも、嫌な予感が、警鐘のように鳴り響いている。

 

 泣きたくなるような思いが胸を締め付ける。
 ありえないと分かっているのに、酷い不安が生まれた。ありえないことだと信じているのに。
「君は僕から離れて行かないで」
「ええ、決して…」
 アミダラは微笑んだ。
 その笑顔が、何故か儚く見えた。

 

END

 


『スターウォーズ・エピソード2』を見て、なんとなく書きたくなった短編です。
半分、ネタバレっすね(汗)
今回はアミダラとアナキンのお話し。
たまにはヤキニクだって書きたくなるんですよ!

スターウォーズ全体にも言えるのですけど、エピ2はとても悲しいストーリーです。
パパ上の青春時代って大変だったのね(笑)
その後も大変ですけど…オオ、ジンジって感じの上司だし。

2007/02/05 『紅い荒野』 by.きめら

 

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